術後4か月あまりで肝臓、肺への再発が確認され、PET-CTとMRI検査で詳しく病状を調べることになりました。

 

主治医からはこれから抗がん剤治療を行っていくことを予告されています。

 

これまで絶対に抗がん剤治療はやりたくない、体に入れたくない! と思っていた抗がん剤恐怖症の私。

 

けれど、とうとう真っ向からそれと向きあわなくてはならなくなりました。

 

副作用がなければ(せめて穏やかなのであれば)、確実に「癌が治癒する」というのであれば、私は喜んで抗がん剤治療に臨むと思います。

 

けれど進行大腸がんである今の私にとって、現実はどうやらその逆のようなのです。

 

ステージ4の固形癌の場合、一部の血液やリンパのがんなどは別として、根治を望むことは難しいらしい。

 

がん情報サービスの「薬物療法」の項には以下のことが書かれています。

 

「がんが進行していた場合や手術後に再発した場合など、治癒が困難な状況で薬物療法を行うことがあります。この場合の薬物療法は、延命やがんによる身体症状の改善を目的としています。がんの種類によりますが、薬物療法を行わない場合と比べて数カ月から数年程度の延命が期待できます。」

 

 

これから私が受けようとする薬物療法はどうやら延命治療としての薬物療法になるようだ。

 

そして、たとえ薬物療法を受けたとしても「数か月から数年程度の延命」だという。

 

覚悟はしていたつもりだったけれど。

やはりしんどいなぁ、この現実は…。

 

どうやら遠くない将来、抗がん剤治療を受けても、受けなくても、私はこの癌によって命を落とすことになりそうだ。

 

自分に残された時間があとどれくらいあるのかはわからないけれど、体に負担のかかる辛い治療をすることだけに時間を費やすのはいやだ。

 

治療をしないことで、たとえ余命が短くなったとしても、可能な限り穏やかに、やり残したことをしながら悔いのないように生きたい、そう強く思いました。

 

検査の結果、もし全身に癌が広がっていたならば、抗がん剤治療は行わないことにしよう。

と、密かに私は心を決めました。

 

数日後、PET-CTとMRI検査を終えた私は夫と共に再び主治医の診察室を訪れます。

 

主治医が画像を示しながら検査結果を説明します。

 

肝臓へ2か所、両肺へ数か所、そして骨髄大動脈リンパ節への転移が確認されました。

 

主治医 今の段階では手術はできないですね。もちろん、我々は手術の技術は持っていますよ。けれど今じゃない。まずは抗がん剤で全身治療をやって様子をみましょう。

 

私 先生、ステージ4ということは根治は見込めない、ということですよね? 延命治療の抗がん剤、ということになりますか?

 

主治医 それは五分五分ですね。

 

 (五分五分??) あのぅ、私は根治が難しいのであれば延命治療としての抗がん剤はやりたくないと思っています。余命がどれくらいかはわからないですが、体に辛い治療を受けるよりも、積極的な治療は受けずに穏やかに過ごせたら、と思っています…。

 

主治医 そういうふうに言う人、結構いるんですよ。

 

 (! へ~、そうなんだ…)

 

主治医 でもね、私の患者さんでも抗がん剤やってる人、沢山いらっしゃいますけど、みなさん、普通に生活しながらちゃんと治療、続けてますよ。今は外来で抗がん剤できますからね。昔みたいに洗面器抱えて苦しむ、なんてこともないしね。

 

 そうですか…。

 

主治医 まあ、内科の先生が抗がん剤について詳しく説明してくれますから、一度話しを聞いてみてください。予約入れておきますからね。

 

 わかりました…。

 

数日後、今度は内科医の診察室を訪れます。

 

部屋に入ると主治医よりは若いと思われる、気さくな雰囲気の医師が迎えてくれました。

 

軽く挨拶をすませると、内科医は紙に絵を書きながら、これまで行った手術、そして今回の再発状況とそれに対処する抗がん剤治療について、丁寧にわかりやすく、説明してくれました。

 

・今はがんを切除できない状態

・がんを完治することはできない

・がんは全身に広がっているので、全身治療である抗がん剤で対応する(FOLFOX+ベバシズマブ療法)

・なるべく元気に長く過ごせるようにしていくことが目標

(抗がん剤をして30か月の生存期間が見込めるかもしれない)

 

内科医はこれらのことを穏やかな口調ながらもはっきりと説明してくれました。

 

説明が終わり、私は自分の希望を内科医に伝えます。

 

治癒が見込めないのであれば抗がん剤治療は行いたくないこと、そして、残り時間は体の動けるうちにやり残したことをしながら穏やかに過ごしていきたい、ということを…。

 

内科医は

「そうですか。無理にすすめることはしません。やり残したことがどういうことなのかはわからないですけど…。一応、今日説明した資料をお渡ししますので、治療するかどうか検討してみてください。」

 

そう言って、抗がん剤治療についての資料を渡してくれました。

 

私は「よく考えてみます」と内科医にお礼を言い、次の訪問日を予約し、診察室をあとにしました。

 

部屋を出るととても清々しい気分でした。

 

内科医がはっきりと私の癌の現状と近い将来の予測を示してくれたからです。

そのことに私は心から感謝しました。

 

これではっきりした。

私はもう治らないのだ。

辛い治療は受けない。

無治療でなんとかやっていこう。

 

再発が発覚してから私を捉え続けていた得体の知れない恐れから、この時私は解放されたのです。