手術が終わって、私はどこかで自分の癌がすっかり治ったような気でいました。

 

取るものは取った。

傷口は順調に回復、排便の頻度も落ち着いた。

快食、快眠、快便。

体のめざましい快復力。

体調はとてもいい。

 

もしかしたらこのまま再発なく、私は結腸がんステージ4の5年生存率19.9パーセントに入るのかもしれないなぁ。

 

そんな風に思っていました。

だって、こんなに元気なんだもの…。

 

もちろん時折、「でもステージ4だからなぁ。いつかは再発するかもしれないよなぁ。」

そんな思いがよぎることもありました。

 

けれど、そしたらまた手術をして取ればいい、そんな風に思っていたのです。

とても単純に…。

 

今思えば私がこんな風に思ったのは術後の補助化学療法である抗がん剤治療を行っていなかったこともあるかもしれません。

(手術前、術後の抗がん剤治療は行いません、と主治医に言われた時は本当に嬉しかった!)

 

補助化学療法に関するガイドライン↓

 

 

 

術後1か月の定期検査は血液検査だけでしたが異常なし。

 

主治医に体調を聞かれ、元気よく「快調です」と告げると、お腹の傷跡を簡単に確認されただけで、早々と診療は終わりました。

 

「あ~、私治ったんだなぁ」

なぜだか、そう実感しました。

 

この時以降、私の中で大腸がん手術はすっかり過去の出来事になりつつあるようでした。

 

以前と変わらぬ生活が戻ってきます。

 

仕事に家事、エクササイズに励み、友人たちとの酒宴(私はノンアルでしたが)や、旅行を大いに楽しみました。

 

そうこうしているうちに3か月の定期検査が近づいてきました。

 

この時になって、なぜか、また久々にあの思いがやってきました。

 

あの思い。

それは「最悪を考える」ということ。

 

癌を告知されてからというもの、心の片隅にはいつも、この「最悪の場合を考えておく」という心の動きがあったような気がします。

 

近づいてきた3か月の定期検査を前に、

「もしかしたら、再発しているかもしれない…」

そんな思いが度々よぎるようになってきました。

 

もちろん楽観的な期待もありました。が、あまり期待をすると、それが覆された時に絶望してしまいます。

衝撃に耐えられるように準備しておくという、これは心の防衛本能とでもいうものなのでしょうか…。

 

6月の初め、主治医の診察室を訪れました。

CT検査と血液検査の結果を見ながら主治医は話し始めます。

 

主治医 体調、どうですか?

 

私 はい、とてもいいです。

 

主治医 (血液検査を見ながら)う~ん、ミンさんね、ちょっとコレステロールが高いですね。

 

私 あ、そうですか。もしかしたら最近、ちょっと食べ過ぎだったかもしれないです。

 

主治医 うん、気をつけて下さいね。う~ん、それでね、出ましたね。(CT画像を指し示しながら)肝臓に2か所、また出てきました。

 

私 え!(思わず夫の方を振り返る)

 

主治医 肺のこのへんもね、怪しいですね。

 

私 …、そうですか…。

 

主治医 これはね、今は手術はできませんね。抗がん剤やらないといけないですね。

 

私 抗がん剤…。

 

主治医 そう、抗がん剤。

 

私 え~、ちょっと抗がん剤は…

 

主治医 いや?

 

私 はい…。しんどいですよね…。

 

主治医 まあ、とりあえずPET-CTと、MRIやって詳しく調べてみましょう。

 

私 …、はい、わかりました。

 

とうとう、抗がん剤、がやってきた。

私が一番恐れていたもの。

ひょっとして死よりも恐れていたものが…。

 

私の癌の第2章が始まりました。