2023年の秋、横行結腸に癌が見つかり、その後の精密検査で肝転移が確認された私は、2024年1月、腹腔鏡手術にて大腸の右半分と肝臓の一部を切除するため入院しました。

 

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(※今回は「おしも」の話になりますので、苦手な方はスルーしてくださいね)

 

入院5日目 手術から2日目


「おならは出ましたか?」

 

「いえ、まだです」

 

「歩くと腸が活発になるから、よく歩いてくださいね」

 

「はい、わかりました」

 

手術から2日がたった。

看護師さんに歩くことをすすめられ、積極的に歩くことにする。

 

お腹の傷はまだズキズキと痛むけれど、痛みを避けるような体の動かし方も心得てきて、工夫しながらベッドから起き上がれるようになった。

 

もちろんベッドのリクライニングは最大に起こす。

 

自力で立って、歩くことができるようになったことは嬉しい。

 

きつくて鬱陶しかった弾性ストッキングも看護師さんが脱がしてくれた。

 

なんて解放感! 気持ちいい~

 

まだ食事はできないけれど水を飲むお許しがでた。

待望のお水。体にしみわたるようだ。

 

けれど、調子にのらないようにする。

ごくごく飲んでむせたりしたらお腹の傷に激痛が走って大変なことになってしまう。

 

ここでストローが役に立った。

 

病院でもらった入院案内の持ち物リスト。その中にストローがあった。

 

「これ、ほんとに使うのかなぁ」半信半疑ながら用意したのだけど、大正解だった。

 

ストローでちびちび飲むことで、むせにくくなるような気がする。

持ってきてよかったなぁ。

 

息を少しでも深く吸うと、右の肋骨下あたりが痛む。

切除した肝臓の傷跡あたりだろうか。

 

なので浅めに息を吸うようにした。

 

時々、咳をしたくなる時がある。

けれど、普通に咳をすると痛いので、「こほこほ…」と力を抜きながら(?)咳をする。

 

くしゃみなんてもってのほかだろうなぁ。

間違いなくおなかに響くだろう。

まだしてないけれど、くしゃみがでないように気をつけた。

 

あくびをするとこれまた痛い。

 

あくびって、とても深く息を吸い込む動作だったのだ。

今まで何気なくしていたけれど、手術して初めてそのことに気づいた。

 

なので、あくびもなるべくしないように気をつける。

 

水を飲んだせいで、お腹が活動し始めたような気がする。

なんとなくおならも出てきそうな…。

 

けれど、危険信号を感じる。

おならと一緒に、うんちも出てきそうな雰囲気なのだ。

なんか、危ない感じ…。

 

けれど、お腹はどんどん活発化してきている。

 

キュルキュルキュルキュル…。

ああ、おならが出そう。どうしよう…。

 

試しに肛門のあたりにティッシュをあてて、少しおならを出そうとした。

すると液体のようなものがじんわり出てくる。

見ると、黒っぽい液体だった。

 

だめだ、こりゃ。

ここでおならを盛大にしたら、便も一緒に出てきてしまう…。

 

今の私はパンツのかわりにT字帯という、薄いふんどしのような頼りない布をゆるく着けているだけだ。

これじゃあ、大惨事になる。

 

看護師さんがいらしたので、そのことを伝えると、

 

「じゃあ、パッド(オムツ)を持ってきましょう。心配ならそれをあててね。でも、トイレにいって出してもいいのよ」

と言われる。

 

「尿道に管が入ってますが、トイレで出してもいいんですか?」

 

「大丈夫ですよ」

 

看護師さんにそう言われ、よちよちとトイレにいって、ふんばってみる。

 

けれど、尿道に入っている管がどうにも気になって、ふんばることができない。

 

トイレで出すことをあきらめてパッドをあてることにした。

 

パッドをあてて、少し安心した私は歩行訓練のために院内の散歩にでかけた。

 

昨日よりも確実に早く、力強く歩けているような気がする。

 

背中はあいかわらず丸く曲がったままで、まっすぐにはできないけれど、足には力強さが蘇ってきているような気がする。

 

けれど歩いているうちにお腹がキュルキュルキュル、とピークに鳴り始めた。

すごく活発化しているようだ。

 

あ~、おなら出そう。

もうだめだ、出しちゃおう。少しくらいうんちが出てきてもしょうがあるまい。

 

ままよ!

 

肛門の力を抜いておならを出した。廊下のど真ん中で…。

 

するとお尻のあたりに温かい感触が広がってきた。

やはりおならと一緒に液体が出てきてしまったようだ。

それも大量に…。

 

やばい! これ、すごい量だわ。

漏れちゃうよ! こんな人が行き交う院内の廊下で…。

 

焦った私は点滴スタンドをガラガラと引きずりつつ、急いで自室へと戻ろうとする。

パッドから便が漏れていないことを祈りつつ、冷や汗もので帰路を急ぐ。

 

手術前に下剤を飲んだけれど、なんか出し切れてない感じはあった。

やっぱりまだ腸の中に残っていたんだなぁ…。

 

自室の入り口までたどり着くと看護師さんに出会った。

 

「すみません、おならをしたらどうやら便も出てきちゃったみたいなんです…。」

そう訴えると、看護師さんは新しいパッドを取りに行ってくれた。

 

はぁ~、念願のおならが出たはいいけれど、お漏らししてしまった…。

 

情けないような、恥ずかしいような気持ちになって、とぼとぼと自分のベッドのところまで歩いていく。

 

体をかがめて自分でパッドを交換できないので、立ったまま、看護師さんにパッドを取り換えていただいた。

 

看護師さんは汚れてしまったパッドを素早く取り換え、お尻も綺麗にしてくださった。

 

水状の黒い便はなかなかの量で、ベッド脇の床に少しこぼれてしまった。

 

看護師さんはそれも綺麗にふき取ってくださった。

 

すみません、すみません、

ありがとうございます、ありがとうございます…。

 

そんなこんなで、無事、おならが出てきてくれたのはいいけれど、恥ずかしいやら、情けないやらのおなら事変となってしまった。

 

それにしても看護師さん、その節は大変お世話になりました。

そして、ありがとうございました…。