2023年の秋、横行結腸に癌が見つかり、その後の精密検査で肝転移が確認された私は、2024年1月、腹腔鏡手術にて大腸の右半分と肝臓の一部を切除するため入院しました。
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入院4日目 手術から1日目
朝がきた。
夕べは手術直後の発熱や痛みで難儀した。
看護師さんが睡眠導入剤を入れてくれたおかげでなんとか眠ることができた。
とりあえず何事もなく夜は越せたようだ。
熱も下がった気がする。
日勤の看護師さんがいらっしゃり、検温、血圧、血中酸素濃度を測定される。
「今日は、ちょっと歩く練習しますからね~」
とのこと。
手術の翌日から積極的に歩いてもらいます、とは聞いていたけれど…。
こんなヘロヘロ状態なのに歩けるだろうか。
けれど、歩くことで肺炎、肺梗塞、腸閉塞の予防になる、と言われれば、「歩かねば」という気持ちにもなってくる。
よっしゃ、がんばらねば…。
ガラガラガラ~、という音がして、大きな機材とともに男性が部屋に入ってくる。
「これからレントゲンをとりますね~」
とのこと。
どうやらこの方は臨床検査技師のようだ。
部屋にやってきたこの大きな機材は持ち運びできるレントゲン機のようだ。
ベッドで寝たままX線撮影ができるらしい。
「それじゃ、体の下にこの板を敷きますので、ちょっと動いてもらいますねぇ」
と姿勢を変えられる。
「うぅっ、いたた…」
「もう、ちょっと動けます?」
動こうとすると、お腹に力が入ってしまい、痛みが走る。
看護師さんにも手伝ってもらいながら、体を動かし、なんとか背中の下に板が敷かれる。
板が敷かれると、大型の機械がベッドを覆うようにセッティングされる。
「はい、じゃあ撮りますよ~」
臨床検査技師の方がおっしゃり、レントゲン撮影が行われる。
「はい、終わりました~」
撮影は寝たままあっというまに終了した。
すごいなぁ。こんな移動式のレントゲン機械もあるんだなぁ。
医療機器の進歩に驚かされた。
昼前くらいに看護師長さんが現われる。
「ミンさんは、これから個室から二人部屋に移動します」
とのこと。
またまたお引越し。
寝たまま、看護師さん達にベッドを押され部屋を移動する。
午後、いよいよ歩行訓練が始まる。
ベッドのリクライニングを最大まで上げ、体を起こす。
靴を履くため、意を決して体の向きを変える。
いてて、やっぱり動くとどうしてもお腹に力が入ってしまうなぁ。
ベッドの柵を掴み、腕の力を利用しながらお腹の筋肉に力が入らないように姿勢を変える。
お腹に傷を得て初めて、普段の何気なくしている動きのひとつひとつが、精妙な筋肉の動きで行われていることがわかる。
「それじゃ、ゆっくり立ってみましょうか。いきなり立つと立ち眩みが出るかもしれないので、ゆっくり立ってくださいね~」
看護師さんの腕に縋りながらゆっくりと立ち上がる。
右手に点滴スタンドを握り、看護師さんに介助してもらいながら歩き出す。
自立への、快復への第一歩。
小さな歩幅でゆっくりと歩き始める。
そろりそろり、おっかなびっくり。
背筋をまっすぐ伸ばすことができない。
背中を丸めて、前屈みに、まるでお腹をかばうような姿勢に自然となってしまう。
これまで、街中でお年寄りがカートを押しながらゆっくりと歩いているのを見かけてきたけれど、今、自分がそのお年寄りの身になったような気がした。
普段、当たり前のように出来ていたことが、出来なくなるって、こういうことなんだなぁ。
けれど、受け入れるしかない。
少しずつ、そろりそろりと歩いていくしかない。
今の自分にできることは唯一、これだけなのだ。
やっとの思いで院内を一周する。
「それじゃ、またあとで、様子をみながら歩いてみましょう」
看護師さんにそう言われ、歩き始める前よりは元気に「はい」と答える私。
少し、自信がついて、その後もひとりでベッドから起き上がり、ベッド脇でしばらく立つ練習などを繰り返した。
早く快復してやるぞ!
そんな思いがふつふつと湧き上がっていた。