　小室直樹も述べているように、権威失墜ということでは、ロシアにおけるマルクス主義の歴史的実験の失敗は、私たちが考えるより以上に大きな出来事であった。未だにその痕跡は残っているが、影響力は甚だしく低下している。神保町の古書店街を歩いていて、かつての名著がゾッキ本となって並んでいたりすると、時代の移り変わりを痛感してならない。

　マルクス主義が何であるかを知る上で、是非とも読んで欲しいのが、松田道雄の『ロシアの革命』(河出書房世界の歴史２２)である。

　ロシアに革命が起きてレーニンやトロッキー、さらにはスターリンが権力を握ることになったが、その前段が詳しく書いてあり、ボルシェビキ以外の党派にも言及している。

　革命がどのようにして醸成されたかを知るためにも、デカブリストの反乱や、インテリが民衆の中に分け入ったナロードニキ、さらにはアナーキストの活動を無視することはできないからだ。

　目次を見てみると、それが一目瞭然である。「プロローグ」「専制の国」「農奴解放への道」「若いロシア」「ナロードニキの誕生」「革命の党」「マルクス主義の時代」「一九〇五年の革命」「第一次世界大戦」「二月革命」「レーニンの帰国」「十月への道」「レーニンの政治」「スターリンの時代」「エピローグ」からなっている。

　圧巻は武装蜂起を主張するボルシェビキと、自然発生的な運動を重視するメンシェヴィキとの対立であった。ボルシェビキのレーニンは、革命家の党を建設して、軍隊によって反対派を一掃したのだ。

　マルクスが予言したように、資本主義が高度に進んだ国家で革命が起きたのではなく、それ以前の遅れたロシアで成功したのである。そしてレーニンの死によって、トロッキーは追放され、独裁者スターリンが登場するのだ。

　松田は、レーニンがドイツのスパイと思われていたことや、革命のための資金がドイツから出ていたことも、事実として触れている。さらに、スターリンの大粛清で中央委員１４０人のうちに、無傷で残ったのはわずか１５人であった。赤軍８万の現役将校の８万のうち２万、予備８万のうち３万が粛清されたことも。

　医師でもあった松田は「リタイア―ド・ドクターがこんな本を書かねばならなくなったのは、マルクス主義を本職としている学者竜が『ロシアの革命』をかかなかったせいだ。この本をかいたあとで感じるのは被害感だけだ」と本心を吐露したのである。

独裁者スターリンに権力を与えただけのロシア革命 松田道雄の『ロシアの革命』

独裁者スターリンに権力を与えただけのロシア革命　松田道雄の『ロシアの革命』