エマ
森薫
エンターブレイン ビームコミックス
全10巻
1巻発行日 2002/9/11

森薫先生の初連載作品なのだとか。19世紀のイギリスが舞台。若くして主人を亡くし、以来、家庭教師(現在は引退)を生業としてきたご婦人ケリーのメイドを勤めるエマの恋愛模様とその周囲を描く。エマは幼い頃に両親を亡くし、路上で花売りをするなどしていた時に、ケリーに引き取られた。12~3歳の頃のようである。ケリーに生活の面倒を見てもらう代わりにメイドとして働くという体裁だが、おそらくその形が整ったのは何年もあとで、実態としては、エマはケリーから良き教育を受けていた、ということになろう。おかげで彼女は、メイドとしての仕事だけでなく、教養を身に着けることができた。

 

清楚な雰囲気漂う美人メイドで、エマのもとにはラブレターが次々と届く。だが、つれない返事を返すだけのエマ。唯一の例外が、ケリーの元教え子ウィリアムだった。

だが、ウィリアムは貴族の子弟。メイドのエマとでは、身分が違いすぎる。2人にできるのは、それぞれのことを想うことだけだ。そんなある日、エマは雇用主であるケリーの死で失職する。ケリーの屋敷の片づけを終えたエマは帰郷を決意する。エマのことを家族に話したウィリアムは、ことに父親に猛反対され、2人の恋はままならない。唯一2人の恋を応援するのは、インドの王族で大富豪のハキム。ウィリアムと親しいようで、遊びに訪れた際にエマを気に入り、しかしウィリアムのためにエマのことは諦め、手を引いた経緯がある。

帰郷といってもアテがあるわけではないエマ。列車の中で、彼女は同業者のターシャと知り合い、それが縁で彼女の奉公先メルダース家で働くことに。使用人が36人もいる大きなお屋敷。働きぶりと教養が認められ、エマは奥様の外出の供に抜擢される。メルダース家の奥様の訪問先は、ミセストロロープ。2人は友人のようである。そのトロロープにも褒められ照れて紅くなるエマ。エマの恋が花開く予感を何故か感じさせるシーンだった。ケリーの教育が行き届いていたからだろう。

一方、エマとの交際が叶わぬウィリアムは「誰もが認める上流階級の体現者になり、死ぬ時に全部捨てて死んでやる」と、身分の釣り合う娘、エレノアとの婚約を決意。その発表の晩餐会で、ミセストロロープの付き人として来ていたエマと偶然の再会を果たす。溢れ出す感情を抑えきれない2人。この再会を機にエマとウィリアムの文通が始まるのだが、そこにしたためられるのは、激しい愛の言葉だった。

会いたい。今すぐ会いたい。

エマが仕えるメルダース家を予告なく訪ねるウィリアム。2人の関係が周知となる。それは大きなうねりとなって物語を揺さぶり、ウィリアムはエレノアとの婚約を破棄してしまう。それは、成り上がりのウィリアム家が、子爵家との婚姻を放棄することであり、世間的には許されるようなことではない。エマとウィリアムの関係をなきものにするため、大きな力が動き、エマは何者かに拉致・誘拐される。行先不明のまま、恐怖で脅して「別れの手紙」を強要されるのだった。

2人の身分違いの恋を、「絶対に許さない」と声高に叫ぶ人、2人の仲を応援する人、自分の都合だけで良し悪しを云々する人、そして傍観者が取り囲む。

7巻は250ページを超えるボリュームで、これでいったん完結となる。いくばくかの時が流れ、具体的な説明はないものの、2人の仲睦まじい後ろ姿が描かれ、読者は恋の成就に安堵できるシーンである。

そして、8~10巻が番外編。
エマの最初の雇用主、ケリー先生の若かりし頃の話(まだご主人が健在で、入場料を工面して二人でロンドン万博(多分1851年)を訪れる)や、本編でウィリアムに婚約解消されたエレノアのその後の話、行動が突飛なわりにはあまり活躍しなかったハキムと、ウィリアムとの少年時代の出会い、そのほか番外編らしいサイドストーリーが描かれる。

 

そしていよいよ10巻。番外編3冊目。本当の完結巻。

エマが出ていった後のメルダース家に新しいメイドが入って、といった話など数編に加え、エマとウィリアムの結婚式が約100ページに渡って掲載。メルダース家の元メイド仲間も駆けつけ、盛大なお祝いになる。

 

読者から「結婚式のシーンを描いて欲しい」とリクエストがあったのかどうかは知らないけれど、やっぱ、ラストはこうでなくちゃ。

 

 

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