新ブラックジャックによろしく
佐藤秀峰
集英社 ビッグスピリッツコミックススペシャル
全9巻
1巻発行日 2007/4/1

 

出版社を移し、「新」となって再出発した「ブラックジャックによろしく」全9巻は、全てが「移植編」。これまでの経緯があるので、多くの読者はおそらく普通の医療漫画を求めてはいなかったろう。「新ブラックジャックによろしく」は、まさしくその期待を一身に背負ったようなエキサイティングな内容だった。

 

それは、医者どうしの出世争いとか、名声争いなんていうありきたりの話ではない。患者には決して知られてはならない裏の話が暴露されるとかでもない。医学の素人でも知っている「移植の常識」、赤の他人同士の臓器移植は、誰から誰になどということは明かしてはならないという常識、それを覆す内容だった。なにしろ、家族間でもないのに、「僕はこの人に腎臓を提供したい」を押し通すのである。

 

僕とは主人公の斎藤であり、この人とはナースの赤城さんである。しかも、斎藤と赤城は結婚を約束した仲などではない。斎藤には同じく看護婦の皆川という恋人がいる。にもかかわらず、別の女性に臓器を提供しようというのだ。当然、男女間のドロドロも絡んでくる。移植を依頼された医者も大いに悩み、苦しむ。だが、結局、斎藤はこれを強行する。この時点で、この作品はもはや、医療をテーマにした社会派ドラマでは無くなった。読者の度肝を抜くことを目的としたストーリーが展開、成立してゆく。

 

こうして斎藤の2年間の研修医期間が終わった。研修は終わったものの、数々の問題を起こした斎藤を受け入れる医局はない。ここで斎藤は医者人生を閉ざされる。しかし、救いの手も差し伸べられる。泌尿器科の教授から、「今後5年間イエスマンでいるなら医師の道を保証する」と言われる。「従順な機械になることができるか」と。

 

この教授の真意はわからない。

斎藤に土下座をさせ、それを見おろす教授。

「私の元でほとぼりが冷めるまで静かにしていたら、医師の道をどうにか作ってあげよう」というような親心とは、とても思えない。そうして、斎藤の5年後の姿が描かれ、物語は幕を下ろす。

 

それにしても、作者と出版社はまた揉めたそうで、9巻の表紙が真っ白なのは、カバー絵を作者が拒否したからだそう。でも、正真正銘の真っ白ではなく、白衣のアップという体裁になっている。これを提案したのは、編集部なのかデザイナーなのか知らないが、なかなかやる。

 

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