ブラックジャックによろしく
佐藤秀峰
講談社 モーニングKC
全13巻
1巻発行日 2002/6/21

医大を卒業し、研修医になった斎藤。様々な科をまわって本当の医者へと研鑽を重ねるはずだったが、医療の現実と癖の強い指導医と自身の青さで葛藤と苦悩の日々。そして、自分の青さと正義感から、研修中の大学病院からも睨まれる立場になり、研修のために所属している医局の上司(指導医)までが、大学病院に居づらくなってゆく。

 

斎藤が研修を積むのは、自らの出身校である永大。研修医の給料は極めて安く、それだけでは生活できないので、一般の病院で夜勤のアルバイトなどを行う。斎藤はそのアルバイトで、自分の手に負えない交通事故の患者が運び込まれ、逃げ出してしまった。あわや見殺しにしかねないところで、婦長が呼んだ院長が駆け付ける。その間、斎藤は別室に身を潜めて隠れているという醜態をさらしてしまった。それでも、研修医の立場から逃げることはできない。

 

永大での研修はローテーション方式で、あらかじめ進む道は決めずに、いくつかの科に順番に所属して研修医としての経験を積む。最初に所属したのは第一外科。担当した患者は既に救命の余地がなく、医療費の無駄遣いになるだけだから積極的な治療をするなと上司からは指導を受ける。しかし患者は、教授の診断で、助かる見込みがないのに手術を受けている。これを上司に問いただした斎藤は、患者の家族から、第一外科の責任者である教授が100万円の謝礼を受け取ったから仕方がなかったのだと答えた。

 

だが、それはそれとして、積極的治療はするなと指示をする上司。強い義憤とともに、命ある限り延命治療をすべきではないかとの思いもあって、斎藤は勝手に投薬のオーダーを出してしまう。少しずつ彼の気持ちと大学病院のあり方が離れてゆく。

 

次の研修先は、循環器内科。心臓病などを担当する内科である。

ここで担当した患者も、内科的には既に手遅れで、手術の必要がある。だが、外科との連携がうまくいかず、遅々として治療方針が決まらない。医局どうしの対抗意識も強い。ようやく決まった手術日程、だが、患者の体調から人工心肺を使うことができず、永大では対応しきれないことが判明した。

 

斎藤が知り合ったちょっとアウトローな雰囲気のある看護婦(作品発表当時はまだ看護師ではなかった)の赤城が、一匹狼の心臓手術の名手を知っており、斎藤は大学の意向を無視して、転院させてしまう。クビはもとより覚悟の上だ。もちろん、それだけでは済まない。永大に睨まれたら、出世や技術の研鑽など、医者として上を目指すことができるような病院への就職も閉ざされる。それでも斎藤は、目の前の患者を見捨てることができなかった。(実際、夜勤のバイト先にも永大から圧力がかかっており、そちらはクビになり生活に困窮することになる)

 

幸い、転院先での手術は成功し、かつ永大からもお咎めなしだった。お咎めなしの理由は、斎藤を飼い殺しにすることで、永大の恥部が外部に漏れないようにするためであり、斎藤の居場所は無くなった。

 

それを拾ったのが、新生児科である。そこでも、未熟児や障害児などの問題と直面し、それを受け入れられない親に手術を拒否されるなど、難題に直面する。

新生児科では看護婦の発言力が強く、カンファレンスにも同席し、医者にも堂々と治療方針などを意見する。そうしないとやっていけない部署なのだった。ここで斎藤は、パートナーとなる看護婦、皆川と知り合う。

 

新生児科の次は、小児科。上司と2人の夜勤で、急病の子供達が待合室に溢れ、緊急手術も必要な事態に。そこへ、救急隊からの受け入れ要請があり、それを断った結果、その子は死亡という結果になった。

 

そして斎藤の次の研修科は、第四外科。癌を担当する科である。ここでついに斎藤は、教授から無視されるという事態に陥る。2人の特徴的な先輩医師に目をかけてもらえるが、さらなる苦悩が斎藤を蝕んでゆく。この「がん医療篇」と次の「精神科編」は長く、コミックスにしてそれぞれ4巻ほどのボリュームなり、斎藤の成長物語でありながら、社会における医療問題にメスを入れる趣がさらに強くなってゆく。

 

あとで知ったことだが、作者と出版社でトラブルが発生しており、思えば単行本の発行ペースも遅くなっており、読み返せば最終13巻で「完結」と解釈できる体裁にはなっているものの、当時はそうは感じなかった。だが、雑誌を読んでいなかった私は、いつしか「14巻」の発行を待っていたことも忘れてしまい、「え? 『新ブラックジャックによろしく』って? あれ? 出版社も違ってる」と、なるのである。

 

 

 

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