オマージュ

矢野健太郎
ラポート ラポートコミックス
全2巻
1巻発行日 1993/1/10

2冊で10編収録の短編集。「日常的なSF」「スポーツ」「時間」「宇宙」等、テーマを決めて競作した作品もあるためか、ジャンルが多彩。半分くらいが、「4Sprits + 2」という共作作品集(全部で8巻くらいまで出たのではないだろうか? いくつかは持っている)から、こちらに収められている。

 

最初に掲載されている「夕暮れの向こうに」は、方向音痴の未夏の話。学校へもまともに通えないらしく、級友の弥生が毎朝迎えに行っているのだが、この日はそれが叶わず、一人で学校へ。途端に道に迷い、遅刻する羽目になった。

 

方向音痴の原因は2年前に遡る。未夏や弥生の幼馴染である葉ちゃん(判断し辛い名前と表現なので記しておくと、葉ちゃんは男である)が、ある日、行方不明になる。彼は未夏以上の方向音痴で、その日以来、姿を現さない。家の人によると、「よく神隠しにあう家系」なのだとか。このことがきっかけで、未夏の方向音痴は本格的に酷くなっていった。

 

だが未夏は、ある時、行方不明になっていた葉ちゃんを見かける。おいかけて行ったその先は、どうやら亜空間とでも呼ばれる領域で、葉ちゃんはずっとそこを彷徨っているらしい。未夏もとうとうその領域に引き込まれてしまったのだ。

 

「終わりなき挑戦」は、矢野先生には珍しいF-1もの。前にもどこかに書いたが、かなりイイカンジで、矢野先生には本格的にレース漫画を描いて欲しいと思ったりしたものだが、あと一作、この短編集の中にレースシーンのあるラブコメがある程度だ。いや、他にあったらゴメンナサイ。相当、集めてはいるつもりなのですけどね。

 

そして、「ベッドタウンストーリー」は、今回単行本初収録作品。

体育館倉庫、公園、草むらなど、初体験をしようとしてなかなかうまく行かない(邪魔が入る)高校生カップル。ついに「親がいないから」と彼女を自宅に誘ったら、妹がいて「試験前になにやってるの? 保健体育の試験には実技があるの?」とかイヤミまで言われている。

 

どこでいたすかというのは高校生カップルにとっては重大な問題。今時は、どんどん草食化が進んでエチをどこでしようかなんて高校生はほとんどいなさそうだし、やってる連中は学校のトイレでもどこでも何でもアリだしな印象だが、物語の中の彼女は「ラブホテルとかいやだからね。高級ホテルならいいけど」な勢い。仕方がないので彼氏君はホテル代を貯めるためにバイトに励み(健全だ)、やっと手にしたその資金をスリにすられてしまうというオチ。

いや、本当のエンディングはこのあとにあるのだけれど、このような短編集まで電子になっているから、そこは避けておく。



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