新しいきみへ

三都慎司

集英社 ヤングジャンプコミックス・ウルトラ

全6巻

1巻発行日 2022/2/23

 

最初に見たのが、1巻だったか、最終6巻だったか、どちらかの書影だった。文句無くカワイイ子で、こんな子が動き回る漫画だったら読んでみたいなあと、実は予備知識なしで突入した作品だ。着ているのも制服らしく(でなければコスプレ)、学園ラブコメ系っぽい感じ。だがしかし。期待は見事に裏切られた。

 

実に読みにくい。状況はすんなり理解できないし、いきなり出てくるのはスーツのくたびれたオヤジだし。いや、その前に確かに彼女は登場する。連載時はおそらくカラーだったのだろう。彼女ーー相生亜希は、制服姿で走っていて、そして振り返り、「悟くん、きみはまた失敗した」と、言う。ただしそれは、そのくたびれたオヤジの夢の中で、である。

 

そして場面は夜の繁華街に転換する。悟は「佐久間先生」と呼ばれており、同僚の先生と2人で、何かをやらかした生徒を引き取りにいった帰りらしかった。同僚の先生と別れ、自分の帰路電車に乗るため駅に向かっている途中、悟は妻の浮気現場を目撃してしまう。

 

先にオチを言っておくと、妻は同性の友人とお酒を飲んだ帰り道で、その友人がたまたま男っぽい服装をしていて、しかも泥酔しているらしく、妻に肩を支えられてる状態でぐったりしていた。顔は下向きであった。せめて彼女の顔が見えたら、浮気を疑うこともなかっただろうし、あるいは「おまえ、何をやってるんだ」などと駆けよればそもそも何も起こらなかった。

 

しかし彼は、妻が浮気をしていると思い込み、かつ現場から逃げ去り、そして家出(傷心旅行)に出かけてしまったのだ。

 

これは以前「未来の飛行機野郎ハルト」の時にも書いたのだが、複数エピソードが重なり合うプロローグに、僕はもうついていけない。掴みの部分、きっかけの部分を描くのに、凝りすぎだと思う。悟が夜の繁華街にいる状況を作り出すのに、まず「生徒を引き取りに行く」というエピソードを持ってきているし、その繁華街の場面は、妻の浮気を疑う状況を作り出すためである。そこに冒頭の夢のシーンは関連していない。でも、かわいい女の子は絵の上での掴みになるから冒頭に持ってきたい。そんなところではないだろうか。

 

僕が編集者なら、冒頭の亜希のシーンはそのままで、次は電車の中(家出している)に移り、「また、同じ夢を……」と悟に心の声でしゃべらせる。そして、「ああ、そうだ。妻の浮気を目撃してしまい、直視に耐えられず、本人に問いただすこともできず、逃げるように列車に乗ってしまったんだ」と続けるようアドバイスするだろう。

 

完結後の購入で、全6巻という手頃な冊数。なのでまとめて買ったが、連載1話目から掲載誌で読んでいたら、2話目は僕ならもう読まない。逆に、連載途中から掲載誌を買い始めたという場合なら、単行本で1巻から改めて読んだろう。ここまでのストーリーを理解していなくても、「どうなってるんだ、これ? 最初から読んでみたい」と思わせる物語なのだ。

 

さて。

妻の浮気を疑い傷心の旅に出た佐久間悟先生は、担任となる生徒相生亜希と旅先で知り合い、彼女に付きまとわれ男女の仲を求められることになる。でも、先生と生徒の不埒な関係を描いた物語ではない。

 

一方、世の中では、新たに凶悪な感染症が広まりつつあるらしい。それは人為的にバラまかれたウイルスではないかという疑いがあるため、佐久間の妻で刑事の亜希が捜査にあたる。その感染症は「F」と呼ばれ、致死率は90%にも及ぶ。

 

実はこの物語は「ループもの」で、ループしているのは亜希。だから、彼女にはこれから起こることがわかる。傷心旅行で亜希と出会い、傷心旅行で訪ねた都市が順に汚染されてるいってるのだと知る悟。2人は次の被害を食い止める行動に出ることになる。

「F」をばら撒く奴は、「防毒マスク」をしていることを突き止め、ついにそいつを追い詰めるが、失敗。この時、亜希は既に81回目のループだった。しかもこの時、2人は既に「F」に感染しており、死亡に至る。そして亜希は、先生に出会う少し前の時間にまたループした。

謎のフレーズ「本当はずっと前から大事なものは全て手に入れていた」や、謎の新興宗教、ラスト近くでパニックの中、なぜか2人の行動に協力する人々のその動機、ちょっと伏線が回収しきれてないようにも思える。僕に漫画読解力がないだけなのか、先を急いで読んだためにすっとばしてしまっているのか、実はよくわからないけれど、「ええ? それで、どうなるの?」と、先を急がせる魅力のある物語であることは確かなのである。

各巻の書影に登場する亜希の表情や姿がその巻の彼女を象徴しており、1巻はかわいい、2巻は元気、3巻もカワイイけれどもちょっと影がある。4巻と5巻は戦いの渦中にあることがわかる険しい表情、そして6巻はラストを予想させる。

 

SFパンデミックサスペンス。
中身を知らずに読み始めたと最初に書いた通り、ループものであることも当然、知らなかった。(僕的解釈では)ループものなんて面白いに決まってるから、キリがないので避けていたジャンル。ついに読まされてしまった。欲を言えば、もう少しじっくり(10巻程度)でも良かったかなと思う。

 

 

5巻も載せとくかな。

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