うぶな27才とむくな11才
瀬口たかひろ
角川書店 角川コミックスエース
全2巻
1巻発行日 2020/9/10

27歳の浄行寺は、「鬼」と呼ばれる漫画編集者。書影でわかってもらえると思うが、ヒロインらしい美人造形にはなっていない。でも、ちょっとカワイイ、かもしれない。漫画の編集者であるとか、担当している漫画家に小桜という中年男性がいて、なかなかネームを通してもらえないとか、「漫画」が舞台の作品のような体裁をとっているが、あくまで「状況を作る」ためのものであって、主題は「うぶな27歳」と「むくな11歳」である。

 

ネームが通らない → 連載が持てない → 収入がない → 子供を養えない。

 

こんな文句を小桜先生が言ったことがきっかけで、小学生の茅(11)を浄行寺が預かることに。茅は家事全般で浄行寺のお世話をすることで、お給料をもらい(これは父親の口座への振り込み)、さらにはお小遣いまで別にもらうという生活が始まった。

 

浄行寺本人がつぶやいているとおり「小学生を使用人にしているなんて外に知れたらエライことになるぞ」なのだが、その茅は浄行寺に懐いて、ぐいぐい迫ってくる。浄行寺は「うぶな」27歳であるから、たとえ相手が小学生でも、距離感の無いそのグイグイにたじたじ。

 

茅が食事を作り、「おいしいですか?」と聞けば、「そういう風に言われたら、美味しいとしか答えようがないだろ? そういう表面的な会話はきらいだ」と、堂々と返事し、そして後悔する浄行寺。うぶなのはいいが、大人気なさすぎる。その過ぎる部分と、にも関わらず懐いてくる茅が、この作品の見どころだ!

 

ある日のこと。お小遣いを使い切ってしまい、目をつけていた「ペンギンのぬいぐるみ」が買えない茅。お小遣いの前払いを浄行寺にお願いするが、彼女はそれを断固拒否。お小遣いは毎月20日。日時を守らないのは嫌いだ、と宣言する。大人気ないが、編集者の鏡である。

 

でも、そのぬいぐるみは浄行寺が買って、「欲しいのなら、次の小遣いの日に私から買え」なんて気遣いも、まあたまには見せる。

 

そして時は流れ(そんなに流れてないけど)、小桜先生のネームがついに編集会議で通って、連載スタートとなる。浄行寺と茅の別れの時が近づいてきた。茅が父親の元で暮らすのは当たり前のことだから「別れの時」なんて発想がそもそもおかしいわけで、「普通の状態に戻る」だけなのであるが、何となく寂しさを隠せない2人。いつしか傍にいるのが当たり前になっていた浄行寺と茅。

 

だけど、別れの日は刻々と近づき、ついにその日。車で小桜先生の家まで浄行寺は茅を送り届ける。

 

「アシスタントは雇わないといけないし、原稿料はまだまだ先だし」といわゆる「連載貧乏」を訴えかける小桜先生。こうして、浄行寺と茅の同居生活は、あと少し続くことになる。

 

いやいや、これで完結ではありませんよ。ここまででまだ半分。もう1冊、お話は続きます。ということで、まだネタバレではありませんよ! と宣言しておきます。

この作品、大好きです。
 

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