りざべーしょんプリーズ

細野不二彦

小学館 ビッグコミックス

全2巻

1巻発行日 1990/12/1

 

埋もれてた漫画を発掘。1990年の作品かあ。懐かしい。

新米添乗員大沢ちえりのドタバタツアコン日誌。

「旅程管理者の正式な資格をとるには、資格者について海外添乗を3回経験しなくちゃならない」と説明があり、もうこの頃にはこの制度があったのかと、懐かしくなった。

 

僕は「一般旅行取扱主任(今の旅行業務取扱管理者)」の資格を持っているのだけれど、「それだけじゃダメだ」と突然言われたのだが、それはこの「旅程管理者」制度ができたせいだ。クソ野郎め。「一般旅行取扱主任」の試験はわりと楽にクリアしたのだけれど、「旅程管理者」は試験に合格するのもしんどかった。しかも、試験に通るだけではダメで、この作品にあるように、「海外添乗3回」をクリアしなくてはいけない。(国内旅行なら、国内添乗1回でオッケーだったはず)

さらに!

1年間、海外添乗をしないままに経過すると、資格を喪失する。試験に合格してるのに、だよ! まったくどうしようもない制度だよ。

 

それだけ当時は、旅行商品のクオリティーが低く、サービス内容もパンフレットと異なっていることが結構あり、おまけにポンコツ添乗員が跋扈していて、しょっちゅう問題になっていたということらしい。

 

いやもう旅行業というのは本当に厳しくて、募集内容と違っていたら、その内容に応じて「〇%払い戻し」なんて制度まである。料理の写真を載せて「季節や仕入れにより内容が異なります」なんてことは飲食業では当たり前だが、旅行業では絶対にあってはならないことなのだ。「さんふらわあで行く、九州別府の旅」を謳っていて、故障のために代替船として「クイーンエリザベス号」がやってきても、アウトなのである。アホでしょ?

 

さて、泣いても笑っても大沢ちえり、3回はとにかく修行の身。自分はまだ半人前でドジばかり踏んでるし、先輩添乗員は飛行機が怖くて恐怖心を胡麻化すために酒を飲むが震えておりアル中と勘違いされるし、客は漫画の登場人物用に作られたようなわがまま放題だし、しっちゃかめっちゃか。そのわりには、どうにかこうにかこなしてゆく。

 

旅程管理者の制度を取り上げたのも、見習い3回というメリハリをつけるツールであり、それを終えたら「一人前!」って本人も喜んでいたからね。制度をそういう風に利用した作劇だったんでしょう。

 

2巻では、日本でそれなりの暮らしぶりができちゃうお嬢さん方にてこずらされる。観光にもレジャーにも文句ばかり言ってトラブルを起こす。思案の末、その客たちを、海とコテージしかない島に連れ出した。「みなさんには、ここで、退屈していただきます」

 

なるほど、日本で喧噪に辟易していた客たちには、楽しく愉快な繁華街ではなく、なんにもないところへ連れてゆく。実はそれこそが贅沢だったんだ、と感じてもらう。大沢ちえり、なかなか知恵を働かすではないか。客もまんざらではないようだった。

 

漫画はこれで終わるが、ちえりの添乗員人生はまだまだ始まったばかり、といった感じの終わり方だ。

 

初版が1990年だが、僕が持っているのは8刷で、発行が1997年。

ギャラリーフェイクなんかとは違い、細野先生の作品としてはきわめてマイナーなのだが、それでも7年間も大切に重版を重ねている。当時は単行本化された作品は、それなりの期間、大切に扱われていただろう。最終巻が発行されたら、気を付けておかないとあっという間に市場から消えてしまう今とはずいぶん違う。

 

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