デリシャス・アンダーグラウンド 国際人材バンクより

石井光太(原作)杉本亜未(作画)

新潮社 バンチコミックス
全2巻
1巻発行日 2023/7/15

 

カバー絵に惹かれた。綺麗ですっきりしているのに描き込まれた絵。美味しそうな食事。なにしろ「デリシャス」である。そして、タイトルも気になった。「国際人材バンクより」の部分である。この二つを絡めて、どう料理するのだろう?

 

私は外国人労働者に偏見がある。2度も騙されたら、そりゃあ偏見を持つのも仕方あるまい? たどたどしい部分もあるが日本語もそこそこできて、人当たりも良く、若干ある専門用語には不安もあったがすぐに覚えるだろうと採用したら、「妊娠しているので、すぐに保育園に入れるために、就業証明を書いて欲しい」と言われた。面接時に妊娠のことを黙っていたのはいかがなものかと思ったが、それが不採用の理由にはならないから、言われたとおりにした。

 

仕事は真面目にやるが、とにかくシフトに入らない。仕事なんてあってもなくてもどうでもいいという感じで、結局、就業証明が欲しいだけだったのだ。

 

それが2度続いた。さすがに3度目は、最初からそうだろうと踏んでかかったら、その通りだった。同じ国籍、似たような境遇(ご主人が日本人で、自分もパートで働く先を探している)で、多分、横のつながりから「あそこはすぐに就業証明を書いてくれる」と情報が流れたのだろう。アジア系だが、見た目が日本人とは明らかに違うので、すぐに見分けがついた。

 

優秀な外国人アルバイトもいる。日本の大学に通っている学生さんで、アジア系だからパッと見では外国人だとは気づかないし、言葉も流暢すぎるので会話からはそれと判断できない。母国語、日本語、英語はネイティブで、プラス他の言語も勉強している。

 

こういった経緯から、厳しく見極める必要があると考えるようになった。

 

さて、肝心の漫画の方である。

就職先が決まってなかった青年砂原が、ようやく採用になったのが「国際人材バンク」である。出勤初日、事務所の前に自転車を止めたら、カワイイ少女が「ここはヤクザが絡んでいる」なんて脅しをかけてくる。彼女は母親がフィリピン人で、不登校になったとき、この国際人材バンクの社長の金森に声をかけられ、アルバイトとして働いているスタッフだった。

 

顔なじみのない青年に不信感を抱いて「ヤクザがどうのこうの」と脅しをかけただけだったようで、その後の物語にはヤクザの影がちらついたりはしない。

もう一人のスタッフであるペドロは日系ブラジル人で、いくつかの言語を扱える。

 

初日から満足な仕事ができるわけはなく、砂原はまず2階のレストランに案内される。ビュッフェスタイルのランチを提供しており、料理が得意な外国人をシェフとして雇用している。いろんな国の料理に精通している。社長の金森は「料理は異文化交流になる」と信念を持っている。

 

この導入部、私にはバラバラな感じがして、どう咀嚼していいか、わからなかった。料理を通じて問題解決という「美味しんぼ」の定番ストーリーのひとつとも違っているし、ヤクザがどうこうという部分は全く不要だったのではないだろうか?

 

物語自体は、社会派よりで考えさせられる部分も多く、面白い。教会を隠れ蓑に外国人労働者を麻薬の運び屋にしたてて荒稼ぎをする奴がいたり、盗品を闇サイトで売り捌く在日ベトナム人グループがラオス人を妻に持つ日本の農家に被害を与えたりといった外国人同士のイザコザに巻き込まれたり。

 

2巻発売の際の予告に「完結」とあったので、打切かなと思ったが、やはりそうだった。今巻は入管に纏わる話だが、他にも様々な問題提議が用意されてたのではと思うと残念だ。この入管の件は、杉本先生によると「原作者と入管に関する考え方が合わず、独自に取材して構成した」とのこと。このあたりのことは、直接、杉本先生のブログで、先生自身の言葉で書かれたことをお読みいただきたい。

 

デリシャス・アンダーグラウンド完結2巻が発売になりました!|杉本亜未 (note.com)

 

とにかく絵が綺麗で、絵柄の好みが大きい読者でも馴染めると思う。

他の作品にも手を出してみたいと思った。

 

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