探偵学園Q
さとうふみや(作画) 天樹征丸(原作)
講談社 マガジンKC
全22巻+プレミアム巻+ラストミステリー巻

1巻発行日 2001/9/17

 

伝説の名探偵が主宰し、探偵を養成するという「団探偵学園」。

そこで、特別クラス「Q」が新設されることになった。

中学3年生で進路指導を受けていた連城究(作品内では全体を通してキュウと呼ばれる)は、「高校へ進学せずに探偵になる」と宣言し、団探偵学園のQクラスの受験を宣言する。

 

試験は、1次、2次、最終とあり、が「後継者養成を目的」とするだけあって、狭き門である。募集人数も「若干名」と要綱にあることから、「成績上位者を上から順に定員まで」といったものではなく、自身が「きわめて優秀かつ高い素養がある」と認めた者だけが合格できるのだと、読者も推測せざるを得ない。

 

この試験の様子が延々と描写されており、かつこの段階で読者が「推理劇」として楽しめるように構成されている。キューの「探偵になる」宣言も、ここではまだ「ただの大口」なのか「秘めたる才能の持ち主」なのか、読者にはわからない。試験が進む中で、じわじわと読者に伝わるようになっている。

 

1次試験は、一瞬写し出された映像からヒントを得て、犯人をあてるというものだ。映像のあと、犯人候補6人が壇上に上がる。受験生は、この6人の中から犯人を推理し、犯人と思しき人間を尾行、目的地までまかれずに尾行すれば、そこが2次試験の会場という寸法だ。もちろん、誤った推理をして犯人以外を尾行すれば、その時点で脱落である。正しい犯人を追っていても、尾行を阻止すべく学園によって罠が仕掛けられている。

 

正しい犯人を尾行すれば、受験生はおのずと「同じ行動」をとることになる。そうして、数人のライバルたちが知り合うことになるのだが、それはすなわち将来のクラスメイトでもある。

 

同じく中3で、瞬間記憶能力を持つツインテールの美少女、美南恵。IQ180の頭脳を持つ三郎丸。格闘技の達人で視力4.0を誇る遠山金太郎。天才プログラマー鳴沢数馬キュウとはタイプのことなる推理を得意とし冷静な洞察と推理から犯人を導き出す推理の申し子のような天草流、といった面々だ。もまた中3であるが、その他のメンバーは年上である。

 

2次試験はペーパーテスト。出題された推理問題5問を解く。だが、キューは、2次試験の開始に間に合わなかった。学園のしかけた罠にはまったのである。そこはなんとかリカバリーしたものの、罠はひとつではなかった。二つ目の罠は見破ることに成功したが、学園側がトラブルを起こしてしまい、そのフォローのために遅刻を強いられる。

 

だが、原因が何であれ、遅刻は遅刻。残り10分で試験会場に駆け込み、ペーパーテスト5問のうち、1問だけしか取り組むことができなかった。ただし、その1問は、正解者2名の超難問であり、わずかな残り時間であえてその問題に挑戦し正解したことが認められて、最終試験に進むことができた。

 

最終試験は推理ものでいう「嵐の孤島」シチュエーション。舞台は無人島だ。

その島で過去に発生しいまだに解決されていない「切り裂きジャック事件」を解決するのが課題であるが、嵐のために外部との往来が遮断されたその島で、「切り裂きジャック事件」さながらに、受験生が次々と殺されてゆく。過去の事件の推理ではなく、本当の事件が起こってしまったのである。

 

この「受験」だけで、2巻が消費されている。

通常、新連載はページ数が増えるので、1話で完結したり、せいぜい2話の前後編構成だったりするのだが、いきなり「受験」だけで2巻である。前作「金田一」の実績があったにせよ、なかなか大胆な構成だ。それだけ作者としても編集部としても自信作だったのだろう。

 

それは即、「読み応え」に通じるし、この作品の未来を読者に予見させて期待を持たせることになる。しかも、推理ものとしてはきわめてフェアな形で、読者にもヒントがあちこちに散りばめられて提示されており、「あいつが犯人では?」と容易に感じさせてくれる。もちろん、正しく推理できていればそれは正解であり、そうでなければ正解にたどりつけない。

 

ここでこの「最終試験」すなわち、作品上のふたつめの推理劇(ひとつめは1次試験)のネタバレをしておく。嫌ならこの先を読まないように。

 

犯人は、団探偵学園の学園長であり伝説の探偵でもある団先生。過去の「切り裂きジャック」事件も、試験のために用意された作り話であり、次々殺されてゆく受験生は、事件演出のために学園側から送り込まれた在校生が正体であった。

 

いや、僕は怪しいと思っていたんですよね。受験生が一人でも殺されたら、普通は試験なんて中止でしょ? もしかしたら「この中に犯人がいるかもしれない」と「犯人は外部から侵入しどこかに隠れているかもしれない」の両方の可能性を考慮しながら、これ以上の被害者を出さないよう最大限の配慮をする、というのがとるべき道だ。なのに、「身の危険を覚悟の上で真犯人を追い詰めようという者はいるか? 捜査に協力できないという者には、最大限の安全確保策をとる」とは言うのだ。

死体の検分も、解剖医の資格を持つ学園側のスタッフ(先生)に任され、その後、腐敗が進まないようにと異なる部屋に運び込まれたようで、受験生たちは検分させてもらっていない。つまり、読者にも死体の情報は隠されたままである。

 

僕には具体的なトリックを見破ることはできなかったが、入学試験のための演出であることだけはわかったのである。

 

でも、これは、読者に対するかなり大きなヒントだったんだと思うな。先に書いた通り、「受験生が殺されているのに、どうして最終試験が中止にならなかったのか、残された受験生の安全確保が即座にとられなかったのか」という違和感。「事件そのものが実は試験課題として用意されたものだった」という結論なら、腑に落ちる。でも、それ以外の結論なら、陳腐な作品ということになっただろう。

 

探偵「学園」といいつつも、様々な年齢層の人が集まっていて、それぞれ「高校生」や「大学生」の身分を持っていることや、入学初日の集合時間が午後3時半であることなどから、この学園は、学校教育課程とは関係なく、いわゆる「養成所」あるいは「塾」ということだろう。彼ら彼女らが通学する本来の学校生活の場面はあまり出てこないが、まったく出てこない「釣りキチ三平」なんて作品もあるから、そこは許容範囲。探偵としての彼らの成長と成果を楽しむことにしよう。


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