のだめカンタービレ
二ノ宮知子
講談社 KCキス
全25巻
1巻発行日 2002/1/11

 

のだめ」とは、主人公の本名「野田恵」の略称である。「カンタービレ」とは、クラシック音楽の用語で、歌うように表情豊かに演奏する、という意味らしい。のだめは音大のピアノ科で学ぶ学生で、ようするにそういう物語だ。

 

じゃあ、のだめがピアニストとして1人前になっていく様子を音大を舞台に描いたそういう作品かというと、もちろんそういう側面もあるのだが、煽り文句に「こんなに笑えるクラシックがあったのか」とある通り、そこかしこに爆裂ギャグが仕込まれた音大コメディなのである。

 

物語は、のだめの先輩学生である才能に満ちた千秋(男である)のシーンから始まる。優秀な学生しか担当しない江藤教授に指導を受けていた千秋だったが、その指導方針に納得いかず、また自身はピアノ科の学生でありながあら実は指揮者を目指していたこともあって、二人の関係に亀裂が入る。とことん反抗的な態度をとった千秋江藤に見捨てられた。

 

彼女にも振られた千秋はその夜、とことん酒に酔ってしまい、マンションの自分の隣の部屋のドアの傍で力尽きて寝込んでしまう。その彼を拾ったのが、隣人ののだめである。のだめの部屋はいわゆる汚部屋で、音大生らしく部屋にグランドピアノはあるものの、ピアノの蓋の上も、ピアノの下もゴミだらけ。そこで目を覚ました千秋は、

なにやら得たいの知れない小さな虫みたいなものがごそごそと部屋を這いずり回る様子を見て、隣の自室に逃げ帰った。これがのだめ千秋の出会いである。

 

千秋の部屋のベランダには、のだめの部屋のベランダから得たいの知れない液体が流れ込んできて、おまけに異臭を伴っていた。これをきっかけに千秋のだめの部屋を掃除してやることになり、おまけに料理まで振る舞ってしまう。さらに5日に一度しか洗髪しない頭を洗ってやるなど至れり尽くせり。臭さに耐えかねただけなのだが、のだめはこれですっかり味をしめてしまい、以降、千秋の部屋に入り浸ることになり。

 

さらに、落ちこぼれ担当と噂される谷岡先生、彼はのだめの指導担当なのだが、江藤に捨てられた千秋も同じ先生の指導を受けることになり、2人の仲は外的要因からも急接近。谷岡のだめを感性溢れる天才肌のピアニストだと見抜いていたと知るのは、もっと先のことである。

 

登場人物も多彩で異才である。

ヴァイオリン科の峰竜太郎。クラシックの勉強もろくにせずに、エレキバイオリンにうつつを抜かし、試験対策そっちのけ。文化祭でやるバンドをどうするかといったことばかり考えている。

管弦楽科(打楽器科という記述もどこかにあった気がするが)の奥山真澄。いわゆる同性愛者で千秋に惚れていて、のだめにヤキモチを焼く。ディンパニの名手。

小さな身体で大きなコントラバスを奏でる佐久桜

指揮者の指導をするため海外から招かれた女好きの変態講師、ミルヒー

 

こうした連中が繰り広げるスラップスティック。音大が舞台であり、音楽家を目指す学生達だから、そうした成長物語ではあるのだが、あまりにもバカバカしい日常が日々繰り広げられ、かと思えば彼らが壁にぶつかり乗り越えていく姿が描かれる。

 

それぞれ弱点も抱えている。のだめは気持ちが盛り上がると譜面そっちのけで独自解釈で音を奏でてしまう。一方で、譜面を見なくても、一度聴いた音楽は再現できてしまう。千秋は指揮者を目指すだけあって、オーケストラで奏でられる一音一音を聞き分けられるが、胴体着陸の経験がトラウマで飛行機に怖くて乗れないため、海外留学ができない。クラシック音楽の指揮者で一流を目指して勉強をしているのに、日本から出れないなんて致命的なのだが、よくまあこんな設定を思いつくものだ。

 

のだめカンタービレの連載前に既に、現在連載中の「七つ屋志のぶの宝石匣」の構想もあったそうで、どちらかをまず連載しようということで、先にのだめとなったらしいのだが、その間に青年誌に掲載された「89クロッカーズ」という作品もあり、題材がとても幅広い作家さんだ。

 

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今回、読み返してみて初めて気がついた。おおひなたごう先生のコミックスが登場している。僕はおおひなた先生の作品も大好きで、具体的に語れるわけではないが、ギャグセンスに共通点があるのかもしれないね。