京都府警あやかし課の事件簿
栗原一実(画)
天花寺さやか(作)
ショウイチ(キャラクター原案)
角川書店 ブレードコミックス
全2巻
1巻発行日
2022年3月8日
京都には誰にも見えへん戦いがあるんや。
いかにも新人OLといったスーツを着て、なぜか竹刀袋を肩にかけた彼女、古賀大(まさる)が訪ねたのは、八坂神社の近くにある喫茶店「ちとせ」だった。
表の商売は飲食店だが、この店は京都府警本部直属「人外特別警戒隊」通称「あやかし課」の詰所である。霊力を持つ正規の警察官と、霊力を持つ一般人との合同組織。古賀は一般人からの加入である。八坂神社での試験に合格し、京都府警預かりの身分を得た。後に試験に合格しなかったという人もちょろっと登場し、悔しがっていたりすることから、霊力を持つ者にとっては「憧れ」の職業なのであろう。
あやかし課は京都に限らず存在するらしいが、さすがに京都ではあやかし課の出番となる事件が多い。大も配属早々現場へ駆り出されて、見学をすることになる。
そこにいたのは、猪と人間のハイブリッドな化け物。「おおかた応仁の乱か蛤御門の変で戦死した奴と猪みたいな山の精霊とが混ざったやつ」と、大は上司から説明を受ける。
叩きのめして消滅させるとか、成仏させるとかではなく、ぐったりした肉体を引きずって「取り調べ」のために連れ帰るところなんかは、なるほど、警察組織であって、従来のオカルトものとはちょっと趣が違う。
あやかし課には、それぞれ得意技をもったメンバーがそろっている。
雷を操るあやかし課のエース、坂本塔太郎。
羽のように舞い薙刀を振るう琴子。
射撃が得意なあやかし課所長の深津勲義警部補。
ちとせのオーナーでもある天堂竹男。
警察官で巡査部長の御宮玉木。
ここに大が加わったわけだが、彼女の得意技は刀。袋に入れて持ち歩いていたのは竹刀ではなく、「魔除けの力を込めて切る真剣」であった。
そして、大には、もうひとつ秘密があった。
それは、京の表鬼門を千年以上守る日吉大社の使い神猿(まさる)から与えられた魔除けの力だった。簪を抜くと大は男になり、自分でも制御できない力を発揮してあやかしを倒し、かつその間の記憶が無くなってしまう。
大は塔太郎と神猿のサポートで、力を制御するための修行に励むことになる。これが、日々の事件の解決とともに進む、この作品のもうひとつのストーリーだと、思う。「思う」であって、断定していないのは、漫画は原作小説の途中、2巻で完結してしまったからだ。(すいません。原作小説、読んでいません。昔は小説もたくさん読んでいたのですが、年齢とともに脳内で文章を映像化する霊力が衰えてしまい、今はほぼ読んでいないのです)。
悪さをする「あやかし」を懲らしめるだけのストーリーではない。
先斗町の命盛寺で行われる鎮魂会がエピソードが大変面白く、かつ関心した。
あやかし課はじめ、神仏に縁のある人々が、命を奪われたにも関わらず食されなかった料理を、食べて食べて食べまくることで鎮魂するという神事である。
フードロスを無くそう(減らそう)という考え方は大きく浸透してきているが、その一方で食の安全などという問題もあって、そう簡単ではない。食に無駄が出れば非難されるが、かといって「賞味期限」などを無視して「まだ、大丈夫だから」と何らかの立場の人が判断して使えば、それも非難される。結局、綺麗ごとは言っても、自分が被害者になるのはイヤ、ということなのだ。被害者とは、食中毒になってしまうことだけでなく、独自判断で食を提供して非難されるということも含む。
そうしたことの裏側の部分を全て引き受けて、自らの身をもって「食べきる」のが鎮魂会。一の膳、二の膳、三の膳といった常識的な範囲をはるかに逸脱して、この年の鎮魂会では三十六の膳まで供された。もちろんこれは鎮魂のためのセレモニーであって、日本中あるいは世界中の全ての食の無駄を食べきるわけではない。
漫画だけで完結しているわけではないけれど、ストーリーは面白いし、絵は綺麗だし、文化や歴史も含めた京都への愛を感じるし、といったそういう作品だ。
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