二度目の人生アニメーター
宮尾岳
少年画報社 ヤングキングコミックス
1~3巻
1巻発行日 2018/10/23

娘の結婚式の衣装合わせに立ち会った多田。しかし、ウエディングドレス姿を見ることは、妻に拒否されてしまった。そして、男親は新郎の所にでも行ってこいと言われ、仕方なく妻の言葉に従う。

 

そこに居たのは(作者がそういう描き方をしているからなのだが)、なんとなくパッとしない男だった。僕にも娘がいるが、この男を連れてきたら、僕だって思う。「こいつのどこがいいんだ?」と。

 

ところが、これがとんでもない男だった。

スマホを見ながら、金野一(58)が死んだ、巨星が堕ちたと、大騒ぎしだすのである。

金野は、「機動兵士ダンガム」「可変戦闘ワクロス」「メガエリア23」など大ヒットアニメを手掛けた、伝説のスーパーアニメーターなのだという。

 

う~ん。そんなアニメは知らないが、どこかで聞いたことがある作品に似ているなあ(笑)。

 

まあこんな男が娘のハートを射止めたのは仕方がない。出会いとお付き合いの場が、コミケだったりコスプレだったりするのだから。

 

だがここで、読者の度肝を抜く台詞を多田は発する。

「58歳で金野一だったら、俺の同級生だぞ」

 

と、いうわけで、普通のサラリーマンだった多田が、娘の結婚を前に、やるせない気持ちで見かけたタバコ屋で、20年も前にやめたはずのタバコを買ってしまった。だが、既にライターを持ち歩く習慣はない。結局、タバコを吸えずにいるところに、誰かが「どうぞ」と火を貸してくれた。

 

タイムスリップのきっかけは、おそらくそれだろう。過去にとんでしまったのだ。しかも、単に時間移動しただけでなく、自分も高校生に戻っていた。

 

タイムスリップもので時々納得がいかないのは、この部分。

過去に跳んで、過去の自分がそこにいて、というのはわかるが、その時代の自分自身になってしまう場合、その時代に本来いるはずの自分はどうなってるんだ?


多田は自宅に戻り、高校生の多田として、そこで暮らし、メシを食っているのである。

 

それはさておき、当時の金田は、学校の授業に退屈している絵の好きな男子でしかなかった。漫画が好きでアニメが好き。彼にとっては、アニメの朝の再放送をリアタイ視聴することが、遅刻の正当な理由になるくらいなのだ。

 

そして、授業中は、教科書の端っこに独りよがりのパラパラマンガを描いて時間を潰している。これを見た多田は、「すごい、さすがは未来のスーパーアニメーター」と感嘆するのだが、そこに現れた真野という女子生徒は、「よく動いているがメチャクチャ。思うがままの殴り書き」と酷評する。

 

おそらく、金田にとっては、それで十分だったのだろう。時間つぶしに好きな絵を好きなように描いていただけ。だが、それでは多田は困る。近未来において金田はスーパーアニメーターになり、そうした凄いアニメに娘や婚約者が心酔し、そしてイベントで出会う。そうならなくては、娘の結婚への道筋が壊れてしまう。

 

多田はまだ、元の時代に戻って、娘の結婚式に出席するつもりでいるのだ。当の本人は学生服を着て高校に通っている、というのに?

 

ともあれ、娘の幸せな結婚という強烈な動機に後押しされ、多田は金野をたきつけ、そこに真野も加わって、アニメーターを目指させる。

 

令和の今のように、テレビにアニメが溢れかえっている時代ではない。強烈な愛好家はもちろんいたが、その盛り上がりは「これから」という時代が舞台である。「これから」を創り上げた時代のアニメーター経験がある宮尾先生が、その時代の熱さを描いた作品である。

 

読み返してみて、「不適切にもほどがある」のテイストがあるのに、ちょっと驚いた。真野に「人物が描けていない」と指摘された金田は、女性キャラの造形のために、平気で真野のおっぱいを掴むのである。もちろん平手打ちを食らうが、金田は胸を中心にした女性の絵と、平手打ちをくらわすシーン、これらをあっという間に絵にしてしまう。おまけに多田まで、胸の柔らかさを表現したければ、「揺らせばいいだろ」とか本気で言ってたりする。ふたりは当然のごとく真野の反撃を暴力という形で食らうが、それはそれ、これはこれ。あっさりしたものである。後に引きずることなく、3人はアニメ仲間として絆を深めてゆくことになる。

 

そんなこんなでアニメ制作会社におしかけた3人、金田と真野はアニメーターとして、多田は制作として、修行を始めることになる。最後まで追いきれなくて、3巻までの所持。



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