児玉まりあ文学集成
三島芳治
リイド社 トーチコミックス
全3巻
1巻発行日 2019/4/25

 

児玉さんの試験が困難でなかなか文学部に入部させてもらえない笛田君。

描き込みが少なく版画のようなタッチの独特の描線。静寂感はあるが寂寥感は感じない。帯にあるように「児玉さんはまるで詩のように改行の多い話し方をする」中で、スッスッと会話がなされてゆく。

 

入部テストは続いている。この日は比喩の練習だ。児玉さんは、「蝶のように複雑で、劇場のように人工的で、地動説のようにはかなく、猫のように完璧」などと、わけのわからないことを言う。でも、この物語では誰もそのことを「わけのわからないこと」などと指摘しないし、児玉さんの態度は普通でドヤることもなく、そして笛田君は淡々と受け入れる。

 

またある日は、笛田君の語彙を増やすため、「しりとり以外の会話は禁止」と申し渡される。そこからの2人のやりとりは、実は会話になどなっておらず、ただのしりとりが延々と続くだけなのだ。笛田君は、「うみうし」「インド象」「消防車」といった誰もがしりとりで使うような単語を発するが、児玉さんは「カイパー空中天文台」「ラフリン波動関数」「シャーボン大修道院聖堂」など決して読者の期待を裏切らない言葉を繰り出してくる。だが、しりとりは最終的に笛田君の勝ちとなり、彼の入部は認められる。(後に取り消されるが)

 

児玉さんは笛田君のことを「彼は現実を見るのをめんどくさがって勝手に周りを作りかえていて、その妄想力に文学の技術を教えれば盲目の大文学者になれる」と児玉さんは評価している。これこそがこの作品の「文学的な」部分かと僕は思わされたのだが、どうやらそうではないことが徐々にわかってくる。

 

笛田君は自分自身の解釈というフィルターを通して世の中を見ており、その解釈により描かれるこの作品は、本当の世界を表現していない。どうやら笛田君がどう世界を見ているかによって描かれている。児玉さんは超ロングヘアなのだが、本物はショートヘアらしいことが示されたりする。

 

入部試験にいったん合格したものの、後に取り消されてしまった笛田君は、にも関わらず部室に出入りし、部活動ではまりあの言われるがまま。そしてついに、同級生の文学少女の芽を摘み取る計略に荷担させられる。そして、それは成功する。これがストーリー上でどんな意味を有するのか、いわかに理解しがたが、理解などする方法はないのかもしれないと思い始めた頃、静かな怖さがゆっくりと増してきた。11話くらいからである。全てが笛田君の狂気が作ったものだとしたら、納得できるような気がしてきたからだ。

 

そうして時は経過してゆき、笛田君はあることに気づく。

「部活動だから卒業すれば終わり」。

児玉さんとの関係を継続したい笛田君は、お付き合いがしたいと告白するが。

さらに、作品内に登場する笛田君の妹も従姉妹も笛田君の脳内につむぎ出されたもので実在しない可能性が示唆される。じゃあ児玉さんも? 

 

そういえば笛田君以外男キャラ出ない。

笛田君は、自身の周りの男性を一切認識していない。

そして彼は、周囲の女性を自分の妄想フィルターで通して脳内変換をしている?

真相は? こわ!

 

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