BANANA FISH
吉田秋生
小学館 フラワーコミックス
全19巻+anotherstory
1巻発行日 1987/1/20

 

間違いなく少女漫画なのだが、そうは思えないハードボイルドで骨太なストーリー。

ストリートキッズやマフィア、さらに軍や国政の関係者まで登場するアメリアを舞台にした、「BANANA FISH」という麻薬をめぐる物語だ。

 

闘う理由は登場人物それぞれにあり、ハードボイルドでありながらその繊細な機微がきちんと描かれているところが、少女漫画ゆえんといったところか。


カメラマンのイベは陸上の成績がふるわないエイジを励まそうと米取材に同行させる。そこでエイジは不良少年の頂点アッシュと意気投合。だが、抗争中のアッシュにとってエイジは最大の弱点となる。

 

エイジは走高跳の選手だが、スランプに陥っていた。奨学金を受けているエイジにとってそれは致命傷である。そのエイジイベが手を貸すのは、イベ自身がカメラマンとしてくすぶっていた時に、エイジの写真を撮ることで世に出たという経緯があり、今度は自分が手を貸す番だと思ったからである。

 

だが、物語を構成するそうした要素が出てくるのは少し後で、作品の冒頭に据えられているのは戦争のシーンだ。廃屋のようなところで待機していた小隊、グリフと呼ばれている男が、仲間に向けていきなりマシンガンをぶっぱなす。取り押さえられたものの、これで数人の死者が出た。グリフはどうやら粗悪な麻薬に脳を侵されていたらしい。このシーンはどうやら、ベトナム戦争での出来事だと、後でわかる。

 

そして、現在。現在といっても、作品発表時(昭和の終わりころ)において、である。立て続けに不可解な自殺事件がニューヨークで起こる。状況はどう見ても、自殺。だが、死んだ人間はいずれも、ゴルツィネというNYで5指に入るマフィアの頭と対立している人物であった。自殺という結論が出てはいるものの、あやしさを感じずにはいられないNY市警のジェンキンズ警部。

 

こういう状況の中で、NYのストリートキッズへの取材ということで、イベに同行したエイジが、アッシュに出会う。アッシュは「カワイイ」と評される容姿の持ち主で、しかも白人。ダウンタウンのゴロツキ少年達からしたら、舐められやすい見た目だが、聡明であり拳銃の腕も良く、とあるグループの頂点にいる。

 

アッシュはかつてゴルツィネの少年性愛の相手をさせられながらも、後継者にするための訓練を受けていた。そのアッシュゴルツィネに対しては怨みしかない。一方ゴルツィネは、自分の元を飛び出して好き勝手に振る舞っているアッシュを捕まえ、取り戻したいと考えている。だが、思い通りにいかないため、可愛さのあまり憎さ100倍の状態へとなりつつある。

 

ところで、ベトナム戦争で粗悪な麻薬で廃人となったグリフは、アッシュの実の兄だった。アッシュは「BANANA FISH」の正体を暴くべく行動を開始する。その同じドラッグを用いて、マフィア界を牛耳り、ひいては軍や国をも思い通りに動かしたいという野望をゴルツィネは抱いており、アッシュに「BANANA FISH」に関することで、先を越されるようなことは容認できるものではない。

 

ゴルツィネの台頭を快く思わない中国系マフィア(表向きは華僑)は、当初アッシュ達に肩入れをするが、ゴルツィネは彼らに近づき条件取引を持ち掛ける。結果、中国系マフィアもアッシュ達を追い詰める側に回る。

 

完全なる部外者であるエイジ。彼の身の安全を確保するため、アッシュエイジに帰国を促し、またエイジをアメリカに連れてきたイベも早々に帰国の段取りをするが、「もう逃げたくない。最後まで見届けたい」というエイジの想いに、アッシュは「自分の身は自分で守れ」と拳銃を手渡す。

 

いつ終わるとも知れぬ少年達とマフィアの抗争が激化してゆく。
 

2060