君は放課後インソムニア
オジロマコト
小学館 ビッグスピリッツコミックス
全14巻
1巻発行日 2019/9/17
 
高1の中見丸太と曲伊咲はクラスメイト。ロクに会話も交わしたことのない仲だったが、とある共通点のため、急速に親しくなってゆく。その共通点とは、不眠症。夜は目が冴えて眠れないのに、学校では眠気に襲われたり、イライラしたり、頭痛になやまされたり。
 
 ある日、今は廃部になってる天文部の部室を丸太は訪れる。倉庫がわりになっているそこに、ダンボールを取りに来たのだ。ドーム型の天井、布がかけられた天体望遠鏡、時が止まったような静寂。居心地よさそうなその空間を、睡眠不足で気分が冴えない時の隠れ家に使おうなどと思ったのだが、先客がいた。それが、伊咲である。ここで不眠症という共通の悩みを打ち明け合う。部室のナンバー錠の番号を伊咲は丸太に教える。こうして天文部の部室は、2人の秘密基地となった。
 
丸太と伊咲は、この物語のいわばヒーローとヒロインである。だが、全然それらしくはない。伊咲はまあ美人とは言わないまでもちょっとは可愛く描写されているものの、丸太はいわゆる目立たず冴えず、容姿も中の下である。
これがこの作品の良いところだ。青春学園物語にありがちなキラキラした主人公像ではなく、どちらかというと隅っこでくすぶっているタイプだから、わりと身近な存在として感じられるのではないだろうか。
 
学校内の秘密基地なんて成立するはずがなく、あっという間に学校にバレてしまう。2人は引き続き部室を使うために、天文部を再興する。先生にも理解と協力を求め、先生からは部活ときて成立させるための条件を出される。こうして、丸太と伊咲の時間が動き出した。
 
クラブ活動として、流星群の観察会や夏合宿なども実施。先生から天文写真の実力のあるOGを紹介され、天文写真を学ぶなど、色々と部活動に取り組むのだが、もちろん全てが上手くいくわけではない。むしろ、じれったいくらいに思いどおりにならない。おまけに伊咲は心臓に病を抱えていて、時々調子が悪くなる。
 
 2人は自然な成り行きで恋人同士になるのだが、熱烈恋愛物語という方向性ではない。本当にぎこちない。ストレートに気持ちを表現する伊咲と違い、丸太は不器用だし、自信をもって告白できるような自分だとは思ってもいない。多分彼のような姿が、ありがちな普通の男子高校生なのだ。
 
物語は、それなりの部活動の成果、大学受験、病気の克服、卒業を経て、完結する。大いなるクライマックスなんて存在しないが、彼らのまわりのクラスメイトも含めて、それなりに頑張ったよね、というのをきちんと感じさせてくれる。「卒業、おめでとう」と心から言ってあげたくなる。
 
難を言えば、「もう少し取材のツメを」と感じさせる部分があるところだろうか。
「6秒我慢をしたら怒りが収まる」なんてことを保険の先生が言ってるが、調べたらこの6秒に科学的根拠などないことは、すぐにわかるので、これは使って欲しくなかった。こんなものは「一粒300メートル(グリコ)」や「翼を授ける(レッドブル)」と同じで、キャッチコピーだ。アンガーマネジメントを売りたいがためのものでしかない。
あと、受験の下見で大阪へやってくるシーンがあるが、どうも大阪駅と新大阪駅が、また近鉄とJRがゴッチャになってるように思う。
 
でもまあ、細かい揚げ足とりは、やめておこう(書いちゃったけど)。なにしろ、ストーリーはとても良いのだ。
書店に並んだ1巻を見つけたとき、予備知識なく「なんか良さそう」と思って買った作品が、期待の遥か上をゆき、アニメにまでなったんだから、文句はない。
 
 

 
1974