ギャンブルフィッシュ
山根和俊(作画) 青山広美(原作)
秋田書店 少年チャンピオンコミックス
全19巻
1巻発行日 2007/7/10

 

バカと貧乏人は立入禁止。文武両道、全寮制の私立中学、獅子堂学園に転入したトム。学園長からは、ここの生徒達がいかにエリートであり、またここがどれほど素晴らしい学園であるかの説明を受け、また彼を学園長室から教室へとアテンドするクラスメイトのキノコは、級長でありルームメイトでもあり、そして、人の好さそうな雰囲気を湛えて居る。

 

だが、実態はそんな大人しい学園ではなかった。

クラスメイトが転校生を見る目は「公立から転校してきて、ここでやっていけるわけがない」といった、エリート意識による蔑みでしかなかった。

 

そしてトムは、ある目的のために、さっそく騒動を起こして、みんなの目を引く。

学園長の曾孫で、容姿にも頭脳にもスポーツにも秀でたお嬢様、獅子堂美華につっかかる。「これまで誰も見たことがなく、そして今後2度と見られなくなるもの」を見せてあげるからと、交換条件にデートを要求するのである。

 

美華は、学園長の曾孫ということで思い上がりも甚だしい女生徒だが、それを裏付けるだけの才気と美貌を兼ね備えており、制服も自分だけ色違いのものを着用、親衛隊を名乗る取り巻きと常に行動している。その彼女にデートを申し込んだのだから、周囲は黙っていない。おまけに、その希少価値の高いモノは、給食に出てきたゆで卵だった。殻を割ったトムは「この中身はこれまで誰も見たことがない」と言い、それを食べて「これで2度と誰も見れない」なんて、トンチみたいなことで、周囲をからかったのである。

 

このトムに脅しをかけてきたのが、風紀委員長の青戸だ。脅しといっても、「彼女に近づくな」といった言葉によるものだが、こんな好機に煽らないトムではない。さっそくギャンブルゲームで挑む。提案したのはトムの方だ。

 

青戸が教室のどこかに100円玉を隠す。そして、隠し場所書いた紙を10枚用意する。そのうちの1枚には正しい隠し場所を、残り9枚は嘘の場所を書く。これをヒントに1分以内にトムが隠し場所を当てるというものである。トムは「このゲームに負けたことはない」といい、青戸は初めてゲームを行うハンデとして10枚ではなく20枚に倍増することを要求、トムはそれを承諾する。掛け金は、隠された100円。

 

青戸は20枚の紙のどれにも正解を書かないというイカサマを行うが、それを見抜いていたトムは、20枚に書かれた場所以外で100円玉を隠せる場所をと推理して、見事正解する。枚数を増やした分だけ「探さなくていい場所」が増え、結果としてトム有利になったのである。

 

悔しがる青戸に、掛け金の100円を持ってきたら再戦を受ける。負けたらこの100円は返してやると宣言をする。こうして倍々ゲームに挑み、1ヶ月後には10億円にすると宣言。これは達成できなかったのだが、そもそもが10億円というのがブラフであり、またこんな風にして学校を潰すのは3つ目だとも言っていたが、その設定は以降全く出てこない。

 

トムには、この学園を闇から解き放たねばならない理由があったのだ。

 

二人目の挑戦者は、寮長の貝塚。ここで彼は「やられたらやり返せがこの学園のモットー」だと言う。品行方正文武両道のエリート校にあるまじき眼光の強さでにらみつける。ここでの勝負はコイントス。表か裏かを当てる5回戦勝負。貝塚は脅威の動体視力の持ち主で、その特技を生かした勝負だ。

 

だがトムは、相手の動揺を誘い(トム青戸から奪い保管していた100円玉なので、製造年をあらかじめ見ていたのだが、さもトス中に読み取ったように振る舞って、自分も同等の動体視力を持っているからイーブンだと思わせる)、その上でイカサマと心理トリックも使うという3重の罠で勝利する。

 

さらに、異なる対戦相手との勝負が続く。

父をマジシャンに持つ女子生徒とトランプのブラックジャックとか、ビリヤードジュニア世界選手権で優勝した女子生徒など。しかも勝負は相手の土俵で行う。

ブラックジャック勝負では、マジック(つまり、トランプ勝負としてはイカサマ)を封じるために自らの指をチェンソーで切り落としたり、ビリヤードではハスラー直伝のギミックと特訓と、そして当然心理トリック(ディレクション)を使ったイカサマで、それぞれ勝ちを収める。

 

獅子堂学園には、悪魔のような風貌をした阿鼻谷という変態教師がいて、問題行動を起こした生徒を地下洞窟に隔離、鉄格子の中で阿鼻谷の指導を受けるという「阿鼻谷ゼミ」が存在する。教師が悪魔なら、生徒も悪に染まりきった連中だ。

トムVS阿鼻谷という構図が徐々に出来上がってきて、ついに阿鼻谷はゼミ生の中からトムへ刺客を送る。勝負はダイス。

ここでは勝負での負けがイコール死となるゲームまで展開される。ここがまあ前半のクライマックスというところだろう。コミックス全巻が手元にあれば、このあたりまでは一気に読み進められるくらい、面白い作品だ。

 

女子の服装もなかなか過激で、制服はとりあえず超ミニ。おまけにトムと対戦する女の子達は、なんともセクシーな衣装を着用ふる。中学生の服装ではない。たまにパンチラもあるが、まあそれはご愛敬。

 

中盤では、冬山のサバイバルゲームが展開され、後半は舞台を海外に移しての「OB懇親会」が会場となる。獅子堂学園を卒業し、社会で高い地位を得た者たちが集まる場だ。世の中を動かしているのは自分たちだくらいに思っている連中なので、娯楽にも容赦ない。ここでは数々の「負けたら死ぬ」ゲームが展開されるが、人の命など屁とも思わない連中が集まってきており、また多少の死人など握りつぶせる権力を持っているから、誰もその狂気のおかしさに気づかない。刃牙で言う「毒を裏返す」ようなこともやっている。

 

デスマッチとしては面白いが、もともとが中学生が主人公の学園漫画だから、そこに意識が持っていかれると、やりすぎ感にふっと現実世界に戻されてしまう。作者も終盤では「どんなゲームをさせるか」で、苦しまれたようなことをインタビューかなにかで告白をされていた。

 

ラストのブラックジャック電気椅子デスマッチは良かったが、そのひとつ前、変則麻雀は、ゲームとしてはちょっと詰まらなかったかなと思う。独自ルールで良いので、花札なんかの方が楽しめたかもしれない。ま、読者の勝手な言い分だけど。

 

この作品に出会ったのは、とあるスーパー銭湯で、である。

漫画雑誌が何種類かおいてあって、休憩コーナーで読めたのだ。

もちろん連載初回から読んでいたわけではない。初めて目にしたとき、既にダイス勝負が始まっていた。だから、なぜ「こんなこと」になっているのか、その理由はさっぱりわからない。でも、とにかく惹きつけられた。ここまでの課程も知りたいし、続きも読みたい。強烈な吸引力があった。

 

1960