ふきよせレジデンス

谷口菜津子

KADOKAWA ビームコミックス

上下巻 いずれも2023/7/12発行

 

ギャルっぽいメイクでコンビニのレジに立つきらりちゃん。座ったまま接客したり、相手によってはタメ口をきいたりするので、常連のおじいさんからは態度の悪い店員というレッテルを貼られているが、そのおじいさんにしても、どうやらきらりとのやり取りを楽しみに店にやってきているようだ。

 

元はお弁当屋で、品ぞろえはコンビニっぽいけど、自家製のお弁当がウリなのは変わらないし、24時間営業でもないから、どう見ても個人経営の独立した店舗だ。店主は主にお弁当作りに励んでおり、レジに立つ店員はきらりちゃんしかいないっぽい。

 

ミュージシャンの夢破れ、今はムーバーイーツの配達員をしている青年も、そのコンビニの常連。実はきらりと同じアパートの住人だったのだが、それまで気づかなかった。そのアパートには「おひとり様」が暮らしている。タイトルの「ふきよせレジデンス」の起源は、このアパートだろう。そして、主な舞台のひとつ(もうひとつはコンビニ)でもある。

 

一人暮らしをしていて、近くにコンビニがあったら、まあそこの住人がしょっちゅうそのコンビニに出入りするのは自然の摂理。こうした人たちの日常を優しい目線で描いた物語なのである。

 

ムーバーイーツ青年ときらりちゃんとの出会いは、ゴミの日。青年のごみ処理が甘く、野鳥にゴミ置き場を荒らされ、それをきらりが掃除していた。荒らされているのが自分の出したごみだと気づいた青年が、謝りながらかけより、2人で清掃したのがきっかけである。この時初めて、「声」がコンビニ店員と同じだと気づいた青年。きらりのノーメイクとメイク時の落差に愕然としながら、客と店員の名乗りを上げる。

 

もうひとりの住人は、校閲の仕事を在宅で行う20代後半の女性。彼女もまたコンビニの常連だ。コンビニのイートインコーナーでしょっちゅう勉強をしている女の子もまた、このアパートの住人だった。みんなちっちゃな「訳アリ」を抱えている。

 

ノーメイクなら「魔女」、メイクをしたら「ギャル」のきらりのギャップに、みんな同一人物とは気づかないでいたのだ。しかし、ご近所さんということもあって、少しずつ交流が始まってゆく。おひとり様の優しい物語。

 

下巻ではきらりの身の上話なども登場し、ご近所さんがささやかに肩寄せ合うようなシーンも登場してくる。ミュージシャン志望の青年がこのコンビニのための歌を作ったりもする。聴かされたきらりは、「すごくふにゃふにゃです」と、褒めてるんだかけなしてるんだかわからない評価をする。ラストシーンは、コンビニを会場にしたこの曲の発表会だ。

 

 

 

 

きらりちゃんの、すっぴん魔女と、ギャルメイク。
1882