ボクが泥棒になった理由(ワケ)
田村由美
小学館 小学館文庫
1巻
発行日 2000/8/10

龍三郎、10歳。同じクラスのリエちゃんから預かった指輪を、没落華族の母親がお金欲しさに、その他骨董と一緒に売っ払ってしまった。訳を話して骨董屋から買い戻そうとするが、その指輪は既に他の客に売られてしまっていた。

 

母親は「そんなの盗めばいい」という。母親は元女優で、美女の大泥棒の役をしたことがある。だから任せておけ、ということらしい。そんな馬鹿なと龍三郎は思う。なにしろ母親は、針に糸を通せない、缶詰が開けられない、アイロンをかければ服はぐちゃぐちゃ、みじん切りもできない、超絶不器用なのだ。

 

仕方がないから、龍三郎が母親にかわって泥棒するのを決意する。そう、それが「ボクが泥棒になった理由」。どうやって10歳の子供が、泥棒などに成功するというのだ。母親はこともあろうに「指輪をいただく」と予告状まで出しており、警察が退去してやってきてすらいる。

 

結論としては泥棒は成功し、リエちゃんに返すのだが、「いらない」と言われてしまう。彼女は母親を困らせるために指輪を隠したつもりなのだが、母親は新しい指輪を買ってしまったのだ。

 

いやもうどう考えても、ストーリーは破綻している。こんなこと、ありえるわけがないのだ。その後、「パパが泥棒になった理由」「ボクが王様になった理由」と短編連作として継続するが、全て同じテンション。「こんなバカバカしいこと、あるわけねーだろ」のオンパレードだ。

 

そんな中に、時にホロリと、時にフワリと、そしてまた時にキリっと、親子だの恋愛だの友情だのといった琴線に触れる部分が見え隠れする、

 

キリキリと脳みそを使って勉強したり仕事をしたりしてて、ふとネジを緩めたくなったときに深呼吸するには最適な、娯楽大作……いや、短編連作だから、娯楽小作、いや、「小」の字では作者に失礼だな、えーとえーと、「珠玉作」だ。

 

珠玉が連なった首飾りのような作品である。

 

フラワーコミックス版では、「ボクが〇〇〇〇理由」というタイトルの単巻がいくつかシリーズで出ているが、文庫では全てが「ボクが泥棒になった理由」というタイトルに統一され、巻数表示がされている。全4巻の模様。

 

1850