私のアイザック
きくち正太
少年画報社 ヤングキングコミックス
1巻
発行日 2005/3/1

 

釣り雑誌の編集者とライターは、取材を終えた帰路の電車の中で、ひとつの大きな決断を下した。それは、「今回の取材は、ボツにする」だ。

日本の原風景ともいうべきささやかな農村と、そこに流れる小川。その素朴な景色の中に、自然の恩恵をタップリと受けた豊かな自然があった。釣り雑誌に紹介すれば大勢の釣り人がやってきて荒らされるのは、目に見えている。自然の恩恵に感謝してそっと生きる地元の人々の生活は守らねばならない。

 

ツーリングカヌーの草分けで川遊びの名人でもある山田元輔氏の紹介で、2人はその地へやってきた。そこには、釣りの名人がいるという。バスの終点からそのまま歩くこと20分。そんなザックリした案内に従ってやってきたのは、古くて大きな茅葺の民家。祖父と孫娘の二人暮らし。釣りの名人は、孫娘の方で、色っぽすぎる中三、名を白幡山女という。彼女は山里の小川で絶大な釣果を誇る。

 

裏庭に流れているようなこんな小川でいったいどんな魚が獲れるというのか。馬鹿にする編集者を横目に、山女はこの川で、「アブラッパヤ、フナ、ドジョッコ、コイ、ウグイ、オイカワ、ゴリ、カジカ、ナマズ、ヤツメ、アユ、川ガニ、沢ガニ、川エビ、ヤマメ、アカザ」などが獲れるという。餌は堆肥をほっくりかえした中から出てくる元気いっぱいのミミズや、庇からひっぺがしたばかりのハチの巣から取り出した鉢の子。川に沈めたドッコという罠には、炒った糠を入れて1日放置すれば、ザッコもたっぷりとれる。夜にはカーバイトランプを使った突き釣りで25cmオーバーのウグイまで。

 

山女の家で2泊をすごし、お土産までもらった編集者とライターは、「書かない」決意をする。だが、編集長は黙っていなかった。釣り世界の「女神」とまで言われる彼女は、腕がいいのは当然として、容姿もプロポーションもピカイチで、自身がプロデュースする釣り具もヒット、ファッショナブルな釣行にも言及して業界を牽引する。

 

「おまえ達が書かないなら、自分で取材をして書く」と、山女の元へとおしかける。だがその日、山女は別の釣りの予定を入れていた。夜の日本海へ船で繰り出す「電気釣り」である。編集長も編集者とライターも同行し、釣って釣って釣りまくることになる。「こんなのは釣りじゃない、漁だ」と登場人物に言わしめるほどである。

 

最初は反目しあっていた山女と編集長も、あまりもの釣果にお互いが協力するようになり、いつしか山女は編集長を「はい、先生」などと呼んで指導に従う傍ら、編集長も山女流の楽しみ方に理解を示し始める。

 

で、釣り雑誌における山女の住むささやかな山里の小川の扱いがどうなったのか、というとこれがわからない。掲載誌の休刊により、コミックスは1巻のみしか発行されていないのだ。自然への愛と感謝の溢れたこの作品、自分としては移籍して続きが読めるものと思っていたが、そうはならなかったようだ。1巻のラストには「2巻に続く」とあり、おそらく作者も、たくさんの釣りネタを用意されていたのではないかと思うのだが、まことに残念。

 

(漫画所持作品リスト 1598)