ガクラン放浪記
弘兼憲史(作画) 吉岡道夫(脚色) 稲田耕三(原作)
講談社 KCDX
全3巻
1巻発行日 2008/10/23

 

「高校放浪記」という小説が原作である。作者は稲田耕三。本来なら稲田先生と書くべきところであるが、本作品の主人公も稲田耕三なので、登場人物の一人として敬称は用いずに表記する。

 

弘兼先生がこの作品に出会ったのは昭和53年とある。これを原作としたマンガを僕は少年キングで読んでいるから、さほど年月を経ずに漫画化されたものと思う。ヒットコミックス(少年キングの単行本レーベル)になったのかどうかは知らない。手元にあるのは講談社のKCDXで、2008年に「弘兼憲史青春作品集」として発行されたものだ。

 

舞台は昭和39年の紀伊半島(三重県)。通学の汽車の中で耕三は商業科の連中に絡まれる。彼の通う高校には普通科と商業科があり、暴力によって普通科は商業科に支配されていた。耕三は普通科の生徒である。父親は厳格を絵にかいたような中学校の教師で、2人の兄も成績優秀、国立の大学に通っていた。耕三はその兄貴達よりも成績優秀なのだが、いつしか親や教師に言われるままになることに疑問を抱いていたのだろう。禁止されている下駄ばきで通学をし、大人が理想とする高校生像を拒否しているように見受けられた。ただの反抗期かもしれないし、それまでに何かきっかけがあったのかもしれない。そこに作品は触れていない。

 

いきなり「先生は敵や。親父は鬼や」から始まった物語は、通学の車中で絡んできた商業科の連中を喧嘩で叩きのめす。これがきっかけで上級生が出てくるのだが、耕三のクラスメイトの高原古味までが痛めつけられたことで、彼の怒りは頂点に達し、耕三と商業科の喧嘩に発展。耕三はナイフを持ち出して「サシでの勝負」を要求。いわゆる番長がそれを認めたために、耕三はナイフを捨て、1対1の勝負で喧嘩に勝つ。この時すでに、「喧嘩は先手必勝」だの「相手がひるんでも、二度と挑んでこようなどと思わないよう徹底的にぶちのめす」だの、モノローグで語られているから、成績優秀ではあったものの、そういう素養はあったのだろう。

 

父親と口論の末、高校なんか辞めて働けということになり、その足で職安へ行く事になった耕三。だが、いざその中に入ると、あまりにもすさんだ雰囲気に打ちのめされる。結局、高校を辞めて働くという決断もできなかった。

 

家出もした。行き先は大学へ通うために下宿している兄貴のもとだった。慰められたり励まされたり説教をされたりして、とりあえず帰宅し父に謝ることを決意した耕三だったが、いざ自宅の前までたどり着いてみると、家の敷居を跨ぐ気になれない。そして、友人に誘われるままに、そのまままた家出をしてしまう。

 

数日後に連れ戻されて家出は終焉を迎えるが、再び喧嘩。今度は警察沙汰になり、退学することとなる。兄の下宿先に転居し心機一転、改めて進学校を受験。これには合格するものの、やはり教師との対立や他校との喧嘩などで2度目の退学となる。

 

それでも北大の医学部に進学したいという夢を捨てきれず、自分を受け入れてくれる学校を探すからそれまで家に置いてくれと父親に頭を下げ、その後、30歳になった耕三が学習塾を経営しているシーンで物語は終了する。医学部へ進学できたのかどうかはわからない。

 

ネットで検索してみると、「ガクラン放浪記」(少年キング掲載時は「ガクランエレジー」)と原作の「高校放浪記」は随分違っているようで、漫画版は「ライト」に描かれているそうだ。「銀河鉄道999」「ワイルド7」「サイクル野郎」などといった作品が掲載されていた時期だ。

 

原作およびその続編によると、結局耕三は高校を5回変わっており、卒業したのは21歳。その時、既に妻子がおり、生活のために学習塾を開いたとのことだ。はみ出した子ども達の気持ちがわかる先生がいるという評判で、塾は繁盛したらしい。

 

ネット上にある「原作」と続編ともいえる「地獄塾奮戦記」を読まれた読者によると、頭はいいのに勉強はしないし、家の金を盗んで友達と遊び歩いたりもしており、漫画では「正義感が強く曲がったことが許せない」「大人に迎合できない、したくない」といった面が描かれているのだが、実際には甘ったれで自分勝手、その上ええカッコしいで、気に入らないことは他人のせいにするというような人物だったようだ。だが、作者本人がそれを自分で書いているのだから、なかなかに凄まじい。何か世の中に対して許しがたい想いが心の奥底に沈んでいたのかもしれない。

 

漫画では、ガールフレンドとの出会いや感情のもつれ、友情の発露なども描かれている。また、受験生の悩みとか、学校生活にも触れられている。そもそもが喧嘩漫画ではないから、様々な青春模様が展開する。とはいえ、法律違反の行為の数々もあるる。飲酒や喫煙や無免許でのバイクの運転などである。そこは少年誌連載の漫画作品として発表当時の許容範囲内におさめて、それ以上のこと、あるいは読者の共感を呼ばないことなどは省略されたに違いない。自分にしても、青春学園ものとして面白く読ませていただいた。

 

KCDX版には、ご本人または関係者がこの本を見たら編集部に連絡をと記載されており、現在は稲田耕三氏と連絡が取れない状態のようだ。

 

(漫画所持作品リスト 1583)