トトの世界
さそうあきら
双葉社 アクションコミックス
全4巻
1巻発行日 2000/1/4

 

多摩で発生した3件の女性失踪事件。警視庁は田野井正一が誘拐犯であることをつきとめ、逮捕状をとった。田野井の家には5匹以上の大型犬がおり、外部へ逃げないように電気柵が張り巡らされている。農場などで野生動物の侵入をふせぐためのものだ。警察は投降の呼びかけに応じない田野井家に突入すべく、大型犬を麻酔銃で眠らせ、電源供給は止めてしまうという作戦に出る。誘拐された女性3人の生死は不明だが、生きているのなら安全に保護しなくてはならない。

 

逮捕の数日前から、警察は田野井家の様子を、道路に停めた覆面パトカーの中から窺っていた。


近所の小学生が「おばけ屋敷とかゆってたけどさ、人、住んでんだ」と、田野井の家の木製の外塀に開いている穴から、内部を覗き込もうとする。すると、件の大型犬がニュっと顔を出す。驚いて逃げてゆく小学生たち。

それを見ていた女子高生の真琴は、(多分次の日に)その犬にサンドイッチをあげようと持ってゆく。包んでいたハンカチを下に敷いた状態で穴の前に置き、指笛を吹く。そこに現れたのは、犬ではなく、薄汚れた人間の青年だった。サンドイッチとハンカチを口で咥えてすぐに中に引っ込むのだった。

 

田野井の家にいるのは、本人と大型犬と、もしまだ生きているのなら誘拐された女性3人。だが、それ以外の存在を女子高生の真琴は目撃したのだ。少し離れた路上の車内からそれを見ていた警察は、それが「人」であることを認識していない。

 

その青年は生まれてから15年間、田野井によって幽閉され、犬達と一緒に犬として育てられてきた。裸で薄汚れており、四つん這いで走り、言葉を知らない。その実態が明らかになるのは、もう少し先である。

 

真琴の母は、娘の男関係に無頓着である。彼女の部屋に誰かが泊まっていたことを察知してはいるが相手を確かめておらず、「筆吉さん?」と問いかけながら、朝食の用意をしている。真琴は「信太だよ」と答える。初めて連れてきた同級生である。だが、母親の態度は変わらない。

「誰だよ、筆吉さんて」と、穏やかじゃないのは信太の方。「信太の知らない人だよ」と真琴は相手にしていない。

 

1巻のカバー写真には登場していないので、一応、真琴も載せておくね。

 

 
綺麗な子だけど、特異性のある人を連想させるような描写はされていない。むしろ作者は、いかに普通かを表現したように思える。
 
一方、筆吉さんは中年のおっさんで、校正を生業としており、自宅が仕事場だ。真琴はしょっちゅう彼の元に出入りし、時には仕事の手伝いなんかもしているようで、「セックスが目的ではなく、ここがいちばんなごむ場所」だと、信太に説明している。
 
信太筆吉の居場所をつきとめ、早朝から家の外で筆吉の部屋を見ていたようで(まるでストーカー)、そのことに気づいた筆吉は、彼の分まで朝食を用意し、真琴に彼を部屋に招き入れるよう伝える。真琴は裸のままベランダに立ち、信太を呼ぶ。こうして3人での食事が始まるのだが、信太はよく朝食をごちそうになるよね。
 
さて、警察は田野井を逮捕し、既に取り調べが始まっているのだが、逮捕の際に逃げ出した犬1匹と青年1人がまだ見つかっていない。青年は犬と一緒に四つん這いで走って逃げたという。
 
やがて青年は、サンドイッチをもらったときのハンカチの匂いを頼りに真琴の家にやってきて、彼女は青年をトト(以前、飼っていた犬)と名付け、「人間に教育する」と決意をする。筆吉信太も、心配をしつつもそれに協力をするのだが。
 
なにしろ言葉も知らない、風呂にも入ったことがない、排泄はどこでもする、食事は犬と同じ扱いで生肉を与えられていただけ、そんなトトだから一筋縄ではいかない。
 
ある日、トト真琴の母にとびかかって怪我を負わせ、限界を感じた真琴トトを施設に預ける決心をする。筆吉に頼んで車で家まで来てもらったのだが、トトはその車に乗ることを拒否して逃げてしまう。田野井家から一緒に外に出た犬が車に轢かれたため、車への潜在的な恐怖を抱いているのだった。しかも、真琴の元から逃走中に警察に発見され、発砲されてしまう。
 
新聞記者や警察、トトの母と名乗る人物など、様々な人間が登場して混線。動物に育てられた人間を、人間として教育していくだけではない、人間模様の絡み合ったストーリーとなっている。
 


(漫画所持作品リスト 1398)