緋が走る
あおきてつお(作画) ジョー指月(原作)
集英社 ジャンプコミックスデラックス
全15巻
1巻発行日 1993/1/12

 

亡き父の遺志を継ぎ、陶芸家となる決意をした松本美咲。萩でも随一と言われる陶芸家、斎藤巌に弟子入りをする。

 

美咲の家庭は元は窯元ではない。だが、美咲の父は脱サラをして、一人で萩焼に取り組んでいた。目指すは「緋」。緋色とは、「朱よりも赤く、炎より深い」と言われ、多くの陶工が挑戦するが、いまだに誰もなしえたことのない発色だという。だが、美咲の父が最後に焼き上げた陶器には、不完全ながら微かに緋が走っていた。

 

これを完全なものにするため、美咲は焼き物の道に身を投ずる。

 

ある日、美咲はとある老人と知り合う。そして、焼き物に使う土を採取するため休耕田にしているという田んぼから極上の土を分けてもらう。それは100年も前から耕されてきた田んぼであった。それを斎藤の窯に持って行き、先輩陶工たちに見せると、陶芸家とって最高品質の土であるという。100年もの歳月をかけて人間に耕し続けられた田んぼの土は、こだわり抜いて作られる斎藤窯の土もはるかに及ばないのだと美咲は教えられる。

 

ちょうどその頃、美咲は入門の第一歩として、粘土作りを修行していた。採取した土を水の力で突いて細かくし、さらにその中から突き切れずに細かくならなかった土を避け、その後、24時間かけて水分を抜き、さらに陰干しをして、そこから半年も倉庫で寝かす。

 

この物語が面白いのは、人間ドラマに終始せず、こうした行程がきちんと示されることによって陶芸そのものの重みに触れているからだと思う。

 

田んぼの土を分けてくれたのは、人間国宝でもある一柳陶王であった。しばらく創作活動からは遠ざかっているらしく、世間では再始動に期待を寄せていた。また、乙彦というあとを継ぐべき息子もいるが、周囲の期待もむなしく、陶芸の道に進まず、長距離トラックの運転手をしていた。

 

だが、この乙彦も、美咲の緋への挑戦に深くかかわってくる。彼もまた緋への挑戦者であったが、父親への反発心のため、父の後継者としてではなく、独力で陶芸の道を成そうとしていた。トラックの運転手をしているのも、全国のいろんな土地で、陶芸にふさわしい土を自ら探すのに便利だからだった。

 

一柳陶王も、美咲の父が不完全ながら緋を走らせたと知り、ライバル心をむき出しにしてくる。一方美咲は、土を練ることすらまだ許されない修行の身。長い長い挑戦が始まった。

 

(漫画所持作品リスト 1291)