竜宮家族
石坂啓
小学館 ビッグコミックススペシャル
全1巻
発行日 2015/4/4

 

海岸沿いに建つ戸建て住宅。それが突然、轟音とともに海の上に放り出されてしまった。地震による地滑りが原因らしく、うまい具合に蠣の養殖イカダの上に載っかって、海に沈むことは避けられたのだが、この海上に浮かぶ一軒家には家族4人が取り残され、漂流生活が始まった。

 

家主は竜ちゃん。一時期は人気のある漫才師だったが、不倫をスッパ抜かれて業界を干された。元相方はピン芸人としてさらに引っ張りだこ、竜ちゃん自身は心療内科のお世話になりながら、ようやく酒浸りの生活から立ち直ろうとしているところだった。

 

離婚協議も成立しており、奥さんは2人の子供と既に家を出ていたが、この日は離婚届にハンコを貰いに来ていたのだった。そして、悲劇に見舞われたのである。やがて救助は来るだろうが、それまでは愛の冷めた夫婦が子供たちを守りながら漂流生活を続けねばならない。

 

そこへ、隣家の独居老人スミスさんが、物置をビート板代わりに、ほうほうの体で漂着する。防災グッズは物置にしまわれていたから物置が入手できたのはありがたかったが、スミスさんは常に「物置が自分の土地にはみ出して置かれている」と苦情を伝えており、だから「中身の半分は自分のものだ」と主張、漂流している家屋に竜ちゃん一家と一緒に住み着いてしまう。

 

そこへ、漁船に乗せてもらったスーツの男がやってくる。彼は不動産屋だった。離婚後はこの家を売り、お金に換えてローン返済の一部にあてる予定だったのだ。不動産屋は家の査定だけして、海上漂流という悲惨な目にあった一家の事実については何も触れずに去っていこうとする。陸に一緒に連れて行ってくれと頼むも、「一人か二人なら乗れるかも」的な返事。しかも、何か腹黒いことを考えているようで、漁師ともども禍々しい雰囲気を漂わす。竜ちゃんは危険を感じて、「誰も乗らない方がいい」と救助を拒否した。

 

次にやってきたのは、近所の人たちだった。ゴムボート数艇にわかれて乗って来た。

陸に戻るのは今は危険だとゴムボートが支給され、その後「村が壊滅的な被害に遭ったので、これからお上の方々のもてなしを受ける」ことになったとかで、ヘリコプターの誘導に従っているのだそう。だが、そのヘリコプターは救助用のものではなく、戦闘ヘリっぽいことに竜ちゃんは気づく。

 

再び家族4人とスミスさんの5人になった一行は、小さな島を見つける。とりあえず陸に上がれるかと期待したが、海岸沿いは断崖絶壁で上陸できそうにない。竜ちゃんだけが島の様子を見に崖をよじ登るが、そこにももちろん救いはない。

 

スワンボートで竜ちゃんの相方Qちゃんがやってきて、コンビ名だけ存続させて新しい相方と活動を続けたいと言ってきた。誰もこの家族+1名が、異常な生活を強いられているのをなんとか助けてやろうという発想をしない異様さに、鈍い読者である僕だって「裏に何かがある」「何が起こっているんだ?」と感じる。

 

しかし、その答えは、まだ示されない。

オカッパ頭にメガネの冴えない容姿で描かれていた中学生の娘、オト子が突然、おめかしをしてアイドル美少女のように変身、Qちゃんの前にさっそうとアピール。芸能界に入りたかったの、と。元相方の娘がとびっきりの美少女で、しかも名前を継続する漫才コンビの新しい相方になるということでQちゃんは大喜び。こうしてオト子Qちゃんと去ってゆく。

 

様々な人が現れては去る中、いつまでも海上漂流生活を続けるわけにもいかず、竜ちゃんたち家族もバラバラになってゆく。そして、竜ちゃんは、ある決意をすることになる。

 

(漫画所持作品リスト 1237)