羊のうた
冬目景
ソニーマガジンズ(5巻まで)幻冬舎(6・7巻) バーズコミックス
全7巻
1巻発行日 1999/8/28

制服を着た男子高校生同士の会話。場所は学校。学園ものの物語のスタートを思わせられるが、それにしては静かで白っぽい空気感を感じる。

 

羊の群れに

紛れた狼は

さみしい牙で

己の身を裂く

 

最初のページ、黒ベタ白抜き文字で記されたこの短いフレーズが、意味深な雰囲気を醸し出すが、しかし一方で、何を語ろうとしているのか、まるでつかめない。

 

絵を描くわけでもないのに美術部に所属している高城一砂は、家に帰りたくないために今日も美術室に寄る。家庭に居場所がないわけではない。母は無く、父は行方不明。父親の親友とその妻が、彼の保護者だが、実の親以上に良く接してくれている。しかし一砂は、どうしても遠慮してしまうのだ。

 

美術室では、真面目に絵画に取り組む女子生徒、八重樫がいた。ショートカットの快活そうな風貌だが、一砂は彼女が笑うところをあまり見たことがない。その八重樫が使う血のように赤い絵の具を見て、急に気分が悪くなる一砂。これがどうやら悲劇の始まりだった。

 

ソファで横になっているうちに短い夢を見た一砂。夢の中で一砂は幼い時に生き別れた姉が出てきた。これがきっかけで、かつて家族4人で住んでいた古びた戸建ての家を訪ねてみた。既に無いだろうと予想していたのだが、そこには姉が一人で住んでいた。

 

姉の千砂は、黒髪ロングの美女で、自宅では和服を着ている。もの静かな雰囲気もたたえているが、清楚な女性というより、どこが凄みがある。

一砂は千砂から、父親も半年前に死んだことを告げられる。そして、自分は何も知らないことを改めて思い知る。だが、姉は全てを知っている。自分の世話をしてくれている父の親友夫婦も、千砂と連絡をとりあっていて全ての状況を把握しているらしく、何も知らされていないのは自分だけのようだ。

 

その理由を千砂は、「高城家は吸血鬼の血筋」で、「一砂にはその兆候が表れなかったから、普通の人として暮らすことにさせたかったから」だと、一砂に告げた。

 

だが、血のような赤い絵の具を見たときに芽生えた、気分の悪さと、身体の中に抱えてしまったどす黒い感覚。

それは一砂の発病を意味していた。

 

「吸血鬼」とはもののたとえであり、この物語はホラーではない。だが、血を欲してやまない病気を発症してしまったのは事実のようだ。

 

血を求める発作を起こした一砂。千砂は腕を硝子の破片で裂く。流れ出す血液。その腕を一砂に差し出す。そして、「あきらめて、こっちに来なさい」と一砂を誘う。同じ運命を背負った姉弟は、静かに寄り添って暮らすことを決意するが。

 

(漫画所持作品リスト 1169)