夏子の酒
尾瀬あきら
講談社 モーニングKC
全12巻
1巻発行日 1988/12/17

 

兄が今際の際に残した幻の酒米「龍錦」。コピーライターとしての第一歩を踏み出したばかりの夏子は、兄の意思を継ぎ「お日さまのような酒を造る」ために、造り酒屋である実家、佐伯酒造に戻る。

 

コピーライターとして夏子が初めて任された大きな仕事が、酒の新聞広告だった。醸造用アルコールを添加した「本醸造」、すなわち「純米酒」よりもグレードの低い酒を賛美する広告に疑問を抱いたり、古い造り酒屋に嫁いだ兄嫁が夫を亡くしたあとも家に留まることの葛藤、父の死をまだ理解できないでいる兄の子など、酒造りの物語がスタートする前から、様々な人間模様が描かれる。

 

兄を慕って蔵人となった風来坊の草壁、杜氏の山田、農家の娘で佐伯酒造で事務員として働く冴子、ベテラン農家の宮川など、徐々に協力者を増やしてゆく夏子。だが、それもみんながもろ手を挙げて夏子の夢を応援してくれたわけではない。粒が大きくて倒れやすい龍錦。化学肥料を用いず、有機農法により健康で丈夫な稲を育てる必要がある。その面倒さかから、途絶えてしまった龍錦。その米の細胞方法を知る者はいない。開口一番、誰もが「そんなことできっこない」と言う。

 

たった1350粒の種籾を、酒造りに必要な最低限の量に増やすには、2年がかりでの取り組みとなる。そして、一人の男との出会いが、夏子と村を変えていく。有機農法に取りつかれた豪田という専業農家だ。「有機農法はやがて世界を席巻する。だが、その前に戦争がある」と。

 

龍錦は復活するのだろうか。米の栽培がうまくいったとしても、それで美味しい酒ができるとも限らない。夏子の挑戦が始まった。

 


(漫画所持作品リスト 1005)