風子のいる店
岩明均
講談社 モーニングKC
全4巻
1巻発行日 1986/12/17

 

岩明先生は「寄生獣」で有名になったし、私も夢中になって読んだ作品だが、この「風子のいる店」を読んでいなかったら、どれだけ話題になっても「寄生獣」は読んだかどうかわからない。この作品が、岩明先生の初めての単行本とのことである。

 

喫茶店「ロドス」でウエイトレスのバイトをする楓子は女子高生。親しい人に対しては平気なのに、そうでな人との会話ではどもってしまう。マスターからは「こっちも客商売なんだから、徐々に直してもらわないと」と指摘され、風子は「もともとそれが目的で選んだバイトですから」と前向きな返事をするのだが。「うちはリハビリセンターじゃない」と一蹴する。

 

そこへやってきたサラリーマン風の男に、つまずいた風子はナポリタンをぶっかけてしまう。だが、普通の会話も苦手な風子、お詫びの言葉がとっさに出てくるわけもなく、やがて怒りが頂点に達したその客に「半人前」だの「ろくに勉強もしていないんだろ」だの説教の混じった罵倒を受ける。何の言葉を返せないでいる風子に、助け舟を出してくれたのが、小指の無い男だった。

 

岸田というその男は、その後もロドスを訪れるのだが、風子に絡む若いプロボクサーに「いい加減にしてやれ」と、また横から口を出す。結果、「表に出ろ」ということになり、ヤクザとプロボクサーの喧嘩に発展してしまう。


喫茶店を舞台にした風子の成長物語。彼女の前に登場するあらゆる人々の人生模様を描きつつ、風子の様々な日常も登場する。

 

ちょっと驚いたのは、第19話「喫茶店散歩」。バイトを減らして時間ができた風子が、客の立場になってみようといくつかの喫茶店を訪問するエピソードである。そういうことをしていると、中には接客態度の良くない店もある。そこで店員が、コップの上の方をもって風子のテーブルに置く。それを風子は「コップの上の方はお客様が口をつける部分だから、もっと下を持つべき」と、心の中で指摘をするのである。

 

これは僕が初めて飲食店でバイトをしたときに習ったことである。が、そういうことを教える店は少ないらしく、ほとんどの店で出来ていない。風子も「ロドス」で教わったのではなく、自ら気づいたという描き方だった。ということは、岩明先生自身が、誰に教わるともなく、普段からそういうことを感じている、ということなのかなと考えてみたりする。

 

(漫画所持作品リスト 991)