妖精事件
高河ゆん
講談社 アフタヌーンKCデラックス
全5巻 1995/10/23

 

校則で禁止されている化粧を注意された中学生のじゅりあとその仲間たち。そこで反抗的な態度をとり、教師と生徒の対立構図が浮き彫りになるのなら、もしかしたらつまらない物語の始まりかもしれないのだが。

「せっかくの綺麗な肌を隠すことはない。(化粧なんか)先生みたいになってからすればいい」と教師は言う。

だが、じゅりあは思う。どうして今すぐやりたいことを我慢できるのか? どうしてまだ明日は死なないと思えるのか?

でも、クラスメイトは別の言葉を発する。「あたしなんて人生あと70年だと思うと、焦って焦って」

 

冒頭のたった数ページで、これだけの価値観や考え方の違いを交錯させるって、やっぱり高河ゆん先生の感性の賜物だわ。

 

そして、じゅりあは天野王子に告白される。

じゅりあはいったん帰宅したものの、その夜、電話で王子に呼び出され、セックスを懇願されて、妊娠する。

 

王子は妖精の王家の「王子」で、悪い妖精から攻撃を受けていた。しかし、王子から「王」になった瞬間に、絶大な力を手に入れるのだ。その「王」になるための条件が、結婚。悪い妖精は追い払ったものの、騎士のクーフーリンが現れる。

 

「世界は金曜日だ。貴様ごときが何をしようと、日曜日には滅びる」と宣言し、王子(改め王)とじゅりあのお腹の中の子をさらってしまう。

遅れて現れた「善い妖精」によって、じゅりあは妖精の国へ誘われ、強い武器と傷薬をもらい、王子と我が子を探す旅に出る。

 

いや、旅には出なかった、というべきか。このストーリーの展開だと、妖精の国を、善い妖精の力を借りながら、悪い妖精を退治し、やがてクーフーリンと対決して、王子を取り戻す、というのが予測できるが、そうではない。じゅりあは人間界をウロウロし続けるのだ。

 

じゅりあが帰宅して、再び家を出るまでに、ひとつの物語がある。

じゅりあは、父の愛人と仲が良く、カラオケなどを楽しんでから帰宅したのだが、そのことを知って半狂乱となった母に罵られているところに、呼び出しの電話が来たのである。呼び出しに応じたじゅりあは、そのまま家出してしまう。

 

じゅりあは武器と傷薬の他に、「必要なお金だけが出てくる財布」ももらっていた。そのお金で、食べ物を買ったりしているようだが、ホテルなんかには泊まらず、どうも野宿や、誰かの世話になって寝床を与えてもらったりが主体の様子である。銭湯で湯に浸かっているシーンもある。本当に家出少女がつつましく暮らしている感じだ。

 

それで、彼女が何をしているのかというと、悪い妖精が人間の暮らしにいたずらをしかけているのを察知しては手を下し、そうすることでクーフーリンに近づこうと試みるのである。だからこれは、妖精の世界に入り込んで勇者となって戦うというような話ではなく、きわめて人間ドラマ仕立てになっている。

 

でも、もちろん、それだけでは終わりません。

じゅりあと王子の、永遠の愛の物語。

 

(漫画所持作品リスト 971)