ナナマルサンバツ
杉基イクラ
角川書店 角川コミックスエース
全20巻
1巻発行日 2011/5/2

「ナナマルサンバツ」は、クイズ用語。7問正解で勝ち抜け、3問不正解で失格、という意味らしい。
 
高校生になった越山は、入学2日目、さっそく部活勧誘の洗礼を受ける。引っ込み思案で、帰宅部になることを決めていたのに、クイズ研究会から「おためしクイズ」のペーパーを渡され、さらには体育館での部活紹介の時に、ステージに引っ張り上げられ、早押しクイズにまで参加させられた。
 
そして、日曜日。同じクラスでとびっきりカワイイ深見さんに誘われ、半ば騙されて連れてこられたのは、他校で開催される「クイズの新人戦」。そこにはクイズ好きが多数集まっていて、競技クイズの世界に自ら飛び込んだ者ばかりが集まっている。新人の越山が叶うはずもない。
 
しかし、彼を見る周囲の目はそうではなかった。競技クイズで勝つための方法を知らないだけで、知識はあるし、クイズで正解を出すための方向性は間違っていない、周囲の人間はそのことに気づき始めるのだ。
 
こうして越山は、高校3年間をクイズとともにおくることになる。友情や若干の恋愛模様も加わった学園部活ものではあるが、メインテーマであるクイズにどっぷりとつかっている。
 
ところで。かつてテレビで放送されていたクイズは視聴者参加番組であり、そういう意味では「競技クイズ」であった。しかし今は、視聴者参加型のクイズ番組は皆無に近い。芸能人が競うのみである。従ってそれらは、ショーであり、娯楽番組である。競技クイズとは無縁のものと言っていいだろう。
 
さらには、いわゆるお茶の間で家族そろって安心して観れるテレビ放送からは、愛好者が競い合うクイズとはどんなものか、想像するのは難しい。そこで。この漫画ではそうしたことの解説や特性についての説明もあるのだ。
 
クイズ番組を家族などで観てると、答えがわかったら声を上げるなど、「娯楽番組の視聴」としてではなく、結局「競技クイズ」的に楽しむことの方が多いように思う。レクリエーションとして仲間内でクイズ大会なんかすることも珍しくない。テレビのクイズ番組でも、回答者があまりにも早く「早押しボタン」を推してしまうと、「テレビの視聴者にはもう少しヒントを」なんてやってくれることもあり、視聴者がクイズそのものを楽しむことも意識して制作されていることがわかる。でも、一派庶民が競技クイズに興じるという機会は、ほとんどないままである。この漫画をきっかけに少しはそういう機会が増えるかなと思ったけど、そのようなことには全くならなかった。
 
この漫画の特筆すべき点は、良き点としては、各巻に読者サービス用のクイズ問題が用意されていること。逆に、残念なのは、それぞれの大会の序盤からクライマックスまでの途中経過において「省略」が用いらており、ダイジェストになっている点である。「単調」「冗長」になるのを避け、ストーリーをそれなりに進行させるためには、ダイジェストになるのは仕方ないのだけれども、せめてクイズの問題そのものは省略しないで欲しかったなと思う。1コマ目で問い読みがあり、2コマ目にいずれかのキャラが回答しているというワンパターンなものが1ページ4~5問(8コマ~10コマ)、場合によってはこれが見開き2ページを使って表現され、物語展開だけを追いたい場合は読み飛ばしてもストーリー的には差し支えなく、でもしっかり読みたい派がそれなりに見れば、回答者の表情から「どや顔」や「勝ち抜けリーチのほっとした感」などが読み取れる、といった具合だと、もうワンランク上の漫画になったように思うのだ。
 
とはいえ、この漫画は大変だったろうなあと思う。
格闘モノだといくらでも強さのインフレが可能だけれど、クイズだものね。おのずと限界があるからね。
 
しかもクラブ活動ものだから、「初心者向け」の問題も用意しなくちゃいけないし、その初心者向けの中にも「誰でも回答できる優しい問題」と、「初心者でも回答できるが、クイズに挑む者としての初心者であるから、『初心者でも勉強してて当たり前』レベルの問題、すなわち勉強してなければ答えられないよといった問題」を混ぜなくちゃいけない。そして、それが徐々に難問になっていき、「ベテランがそれなりに勉強していなくちゃ答えられない」問題になってゆく必要がある。だけど、100%誰もが答えられない問題ではダメである。作者の知識では「これが正解」だけど、最新の情報ではそれが変わっている場合もあるから、油断できない。
 
よくこのテーマで作品を成立させ、予定どおりのエンディングで完結させたと、賞賛したい。
 

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