マリオネット師
小山田いく
秋田書店 少年チャンピオンコミックス
全11巻
1巻発行日 1988/2/5

両親に見限られ荒れていた灯(ともし)に、居場所を与えてくれたスリの政二郎が殺された。そしては、マリオネットを操るスリとなり、やがて凄腕の仕事師に。その一方で、人形劇団の一員としても活躍する。
 
この日、が狙ったのは、庶民派を標ぼうしながらも、裏では悪徳にまみれた代議士だった。自分が狙うのはこういった社会のクズ。それがスリという犯罪行為を正当化するためのにとってのわずかなよりどころだったのだろう。だが、その代議士の財布には、第三者に決して見られてはならないメモが入っていた。その財布をスったために、は、唯一自分に居場所と心の拠り所を与えてくれていた師匠の政二郎を失ったのである。
 
その現場にいた灯は、取り調べを行った刑事の諸戸により、とある人形劇団に連れて行かれる。この劇団は、諸戸のようにはみ出した若者を連れてきたりしており、自分の居場所がなくてスリなんかをしている彼の気持ちも理解してくれそうな連中で構成されている。
 
かといって、はすぐに更生するわけでもないし、正式に劇団員になったわけでもなさそうだが、厄介ごとの解決なんかには主体的に絡んでくる。
スリというからには悪者なのだけど、勧善懲悪的なストーリー展開の中では、「善」の立場で描かれるので、そういう部分は「ミナミの帝王」的と言えるかもしれない。
スリ師同士の対決譚とか、ヤクザとやりあったりとか、サスペンス的要素も多い。一方で、人情話も少なくない。劇団のメンバーも元々は訳アリなので、過去エピソードなども興味深い。
 
マリオネットを手にしたは、以降、この操り人形を手に、スリだけでなく、喧嘩の道具としても活かす。マリオネットに実際に漫画で描かれたような動きをさせることができるのかというと、おそらく「ノー」であろう。だが、それをやってのけるところにこの漫画の面白さがある。
 
人形だけでなく、人形部分を「重石」にして投げ、人形を自分をつなぐ糸を武器として使うシーンも幾度となくあるが、こちらの方が現実的な気がする。糸を張って相手の足をひっかけて転ばせるとか、首に巻き付けて締めるとか、腕に巻き付けて引き寄せ武器を持った手の動きを封じるなどである。「スケバン刑事」の「ヨーヨー」のような使い方である。どうやら僕は、「武器」とは認識されていないアイテムを「武器」として使うという設定に、心が躍るみたいだ。
 
この作品、小山田先生ファンの間では、どうやらターニングポイント的な作品であるらしい。「マリオネット師」によって、新たなファンを増やしたということらしい。かくいう私も、マリオネット師で初めて小山田先生の作品に触れたクチである。
 

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