昨日のことである。
職場から自転車で自宅に向かっていると、「こんにちは~」「こんにちは~」と背後から声をかけられた。
聞き覚えのある声である。
「聞き覚え」と云うか、耳になじんだ声である。
誰であるか振りからずともわかる。
「何処から追いかけてきたのよ。自転車を追いかけて走るだなんて、この炎天下、自殺行為だよ」
声の主は美猫姫だ。
「交差点で見かけて、追いつけるかなぁ~、って思ってさぁ~」
気温38度を超える街中を、母親がこぐ自転車に追いつくために、「こんにちは~」などという間抜けな声掛けをしながら走る娘、変人以外の何者でもない。
そして今日は……。
車道の反対側を歩く美猫姫を見かけた。帰宅時間が重なることが多いのだ。
「猫さん、お帰りぃ~。先に行くね!」
先手必勝で声をかけたつもりだった。「ちゃんと歩いて帰って来い」との思いを込めて。
ところが美猫姫、今日も走りはじめたのだ。しかもここから走っては昨日よりも距離が長くなる。
道路の反対側を、自転車に並走する美猫姫、その姿はスマートだ。フォームが整っている。
でも、気温は今日も38度超え。眺めている場合ではない。
交差点で自転車を降り、並んで歩いて帰ることにした。
「猫さん、走ると格好いいねぇ~」
「それはそう。運動神経は悪くないからね。自分が手足くねくね女の子走りするのなんて、想像したくもなかったから、走り方も研究したし。そうしたらタイムもよくなったよ」
「それにしても、この時間に走るなんて、死んじゃうよぉ~」
「なんかさぁ~、お母さん見ると、追いかけたくなっちゃうんだよねぇ~」
「へっ??」
なぜ追いかける? 猫は母が好きなのか!? それとも狩りの習性か!?