これまでに描いた植物画をまとめました。
●ミズナラ(水楢 Quercus mongolica var.grosseserrata)
水楢 ・北海道から九州まで日本各地の山地に分布するブナ科の落葉高木。 幹や枝に含まれる水分が多く,燃えにくいことから「水楢」と呼ばれる。学名はQuercus mongolica var. で,ユーラシア大陸北部に分布するモンゴリナラ(Quercus mongolica)の変種(var.「バラエティー」)という位置づけである。他のコナラ属種との間での交配はしばしば発生するが,葉がまれに二重鋸歯になるのが本種を葉で見分けるポイントである。
縄文時代には分布域の東日本で冬の保存食として重要であったが,ブナ科樹木の種子(通称どんぐり)は,リスなどの動物にとっても冬越しのための食料として重要である。備蓄のために地面に埋め,食べ忘れたたものが翌年の春に発芽する動物貯蔵型散布である。どんぐりは地面に落ちただけでは根が地面に刺さらず枯死し,また親木の下では親木から害虫をもらってしまう。動物によって遠くに運ばれれば良好に成長し,森の範囲も広がる「木と動物の森づり」が行われていく。
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●オオイタドリ (大痛取り Polygonum sachalinense)
北海道及び本州中部以北に生える大型の多年草。本州には小型のイタドリが北海道のアイヌ民族を始め、日本では伝承的に健康保持機能が強く期待される野草として長く生活に根付いてきた。今でも若芽は食品として利用され、東北地方では油炒め、和え物、酢の物、サラダなど様々な料理に用いられている。根茎は「虎杖根」という漢方として使用されている。
筆者は,この植物と北海道美唄市の炭坑の捨て石集積所(ズリ山)で出逢った。美唄市はかつて炭坑の街として栄えたが,現在ではほとんど全ての炭鉱が閉山され,その周辺には大量のズリ山が残されている。これらの斜面は,多くが長期にわたり半裸地状態となっており,植物群集の回復はきわめて遅く,早急な植生復元が必要である。その斜面に真っ先に生育していたのがオオイタドリであり,約60%を占めていた。同種は地下茎繁殖し,斜面に大きな群落を形成する性質があるので,ズリ山斜面のかなり上部のような,変動は大きいが,肥沃な土壌が多く堆積する立地に優占したと考えられる。
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●エウロアメリカポプラ(Hybrid black poplar, Populus × euroamericana Rehder)
通称改良ポプラ。ヨーロッパクロポプラとアメリカクロポプラ他とを交雑して作り出された雑種。いわゆるポプラ(セイヨウハコヤナギ)と違って樹形は縦長ではなく横に広がる。並木,公園樹,パルプ材,防風林として用いられる。ポプラ類は,イタリアで交配種が生み出された始めたが,日本で林業的に生産を目的としてポプラの試験研究がはじめられたのは,昭和14年頃に国立林業試験場でポプラの育種に関する研究として,現在の中国から多数の材料が導入されてからといわれる。
著者の住んでいた北海道と中国内陸部とが似たような景色だと思うのは,ポプラの防風林があるからだろう。防風林は,耕地に吹き込む風を減少させ,農作物を風害から守り,実に樹高の20倍の範囲で効果がある。しかし,選定や間伐などの管理をしないと,樹間の密度が増し,風が弱まらず,樹の根本で乱気流が発生すると作物に害が生じる。近年,北海道ではGPSを遮るなどの理由を含め,防風林のメリットよりデメリットのほうが大きく感じる農家が増え,防風林の皆伐が増えていると言う。一方で,風が増すことにより,100年かけても1センチほどしか生成されない土壌が何倍ものスピードで侵食される,等の警鐘も鳴らされている。中国においても,かつて防風林は作物を守るだけでなく,間伐材を薪炭材として利用してきた。けれども,その習慣が減れば,北海道と同じように,懐かしい内陸の風景も変わっていってしまうかもしれないと思うと,少し寂しい。
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●ヤマナラシ(山鳴らし Populus tremula var. sieboldii)
北海道の夏,農道を歩いていると,ヤマナラシの葉がサワサワと風にそよいで,涼し気な感覚を与えてくれる。同種はヤナギ科ヤマナラシ属の落葉高木であり,「山鳴らし」の名は,葉柄が扁平なことにより,葉がわずかな風にも揺れて鳴ることから。日本固有で山地に自生。北海道では街路樹などとして栽植される。
別名はハコヤナギ(箱柳)であり,この材で箱を作ったことによる。材は柔らかく,加工しやすいので箱などの細工物やマッチの軸などに使われた。一般的にポプラと言われてイメージする箒状の樹木は,植物学的にはセイヨウハコヤナギである。
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●エゾノバッコヤナギ(蝦夷のばっこ柳 Salix hultenii var. angustifolia)
北海道の山地や平地に生える落葉樹。婆さんの東北の方言は「ばっこ」,花の様子を老婆の白髪に見立て「バッコヤナギ」となったと言われる。 ヤナギ類は同じ仲間の間で形態が似ており,同定(識別)が難しく,それを避けられることが多いようだ。ヤナギ類は川辺によく生育し,水面に張り出すように生育するので,落葉落枝や昆虫などが川の生き物たちの餌となり,「魚付き林」を形成する。そのため,生きもの工法として,栄養繁殖により,護岸工事になどに使われる。中でもタチヤナギ(Salix subfragilis)は,えら呼吸(?)をしているのではないだろうが,水中で呼吸をしているかのように生きることができる。
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●コミネカエデ (小峰楓 Acer micranthum)
本州・四国・九州に分布する落葉小高木で日本固有種。冷温帯のブナ林などの夏緑広葉樹林に生育する。樹高は5mほどまでで,あまり樹高は高くならないので,尾根筋や谷沿い,攪乱を受けた場所,二次林などに生育することが多い。
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●ヤマツツジ(山躑躅 Rhododendron kaempferi)
北海道から九州まで,日本全国の山野で普通に見られる代表的なツツジであり,ツツジの仲間では最も背丈が高くなる。葉は楕円形で,枝から互い違いに生じる。暖地では常緑性,寒地では落葉性となる。サツキに似るが表面にサツキほどの艶はない。
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●八重桜
八重桜は,八重咲きになるサクラの総称。多くの品種が,野生種のオオシマザクラとヤマザクラなどの種間雑種として誕生した栽培品種のサトザクラ群に属し,ボタンザクラ(牡丹桜)とも呼ばれる。
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●イチイ(一位,櫟,オンコ Taxus cuspidata)
九州南部及び沖縄を除く日本全国に分布するイチイ科イチイ属の常緑針葉樹。まっすぐに伸びる幹と綺麗な円錐形,葉陰に垣間見える深紅の果実が美しく,庭園の主木,生垣等に使われる。和風のイメージが強いが,中国東北部,シベリア東部及び朝鮮半島にも自生が見られる。
北海道や東北北部などではアイヌ語名あるいは東北地方の方言に起因するとするオンコとして親しまれ,別名(古名)のアララギも短歌雑誌「阿羅々木」によって広く知られる。
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●カラマツ(唐松 Larix kaempferi)
マツ科カラマツ属の落葉針葉樹。日本産針葉樹の中では,唯一の落葉樹である。その,唯一の落葉樹であることから「落葉松」と書くこともある。天然では, 東北地方南部, 関東地方, 中部地方の亜高山帯から高山帯(標高1100m~2700m) に分布する。 日当たりと岩石が細かく崩れたような通気性の良い土壌を好み, 比較的夏に雨量が多く, 寒さ厳しい環境に生育している。
筆者は北海道から信州に転居した際,北海道のカラマツは信州から持ち込まれた信州カラマツと知らされ,親しみを覚えた。信州は北海道より緯度が低いが,山岳地帯であり標高が高いので気温が低く,似通った植生になる。生長が早く,木材強度も強いので,気温の低い地域では戦前にカラマツによる大規模な造林が行われ,電柱や炭坑の坑木に使われる予定だったが,今日では時代に取り残された樹木となった。しかし,近年の木材加工の技術によりそれが徐々に見直されてきている。
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●ナナカマド(七竈 Sorbus commixta)
北海道から九州まで広い範囲に分布するバラ科ナナカマド属の落葉樹。山地に自生するが,春の芽出し,新緑,秋の紅葉,雪中に残る赤い果実と四季を通じて見所があるため公園や庭園にも植栽される。
北国では街路や高速道路沿いに植栽されることが多く,特に北海道では複数の市町村で自治体の木に指定している。日本原産だが近縁種はアジアやヨーロッパの各地に自生する。
材は固く,名前の由来は,「七回竈に入れても燃え尽きない」といわれる。7日間,竈で焼いて炭をつくるから,ともいわれる。
実や紅葉が美しく,北海道などの北国では庭木や街路樹,公園樹として植栽され,花材としても用いられる。材は褐色で堅く細工物に適しており,ろくろ細工の材,彫刻材としても優良である。樹皮は染料にする。果実は果実酒にも利用できる。かたい材は備長炭の代用として優れている。
生の果実中に存在するソルビン酸はナナカマドの学名より取られた。現在は合成したものが保存料として使用される。
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●ストローブマツ(Pinus strobus)
北米の主要な造林樹種で,明治31年,旭川営林支局の外国樹種見本林にヨーロッパトウヒなどとともに北海道内で最初に植栽された。
道産のエゾマツ(Picea jezoensis)やトドマツ(Abies sachalinensis)に比べて密度が低く強度性能はやや劣るが,北海道の立地・気象条件に対する適応性が高く,また成長が早いことから昭和30年代~40年代後半にかけて国有林・民有林を中心に植栽が進められた。
ところで,学名に詳しい方はお気づきだろうが,エゾマツやトドマツはマツではない。エゾマツはトウヒの仲間,トドマツはモミの仲間なので,本来はエゾトウヒ,トドモミと呼ばれるべきである。このように植物の名前は親しみやすいが,しばしば誤解を生むので,学名を覚えればそれが避けられ,かつ系統を正確に把握することができる。北海道の著名な生態学者,伊藤浩司博士の野帳はすべて学名表記であったという。しかし,分子生物学が発展してくると,リンネから続く形態学的分類法では近いとされていた種も,全く異なる系統であることが明らかになり,訂正されることがある。学名を一生懸命に覚えてきた人たちからは,「訂正の度に苦労が水の泡になった気分だ」と嘆く声を耳にすることがある。
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●クリ(栗 Castanea crenata)
市販のクリには見られないが,野生のクリを割って食べようとすると,目につくのが2mm程度の穴である。これはゾウムシ(Curculionidae)の幼虫の食害であり,筆者が種子の保存,食用とするとき悩まされた。一度卵が孵化してその幼虫により1匹に食害されただけで,その種子全体に悪臭がおよび商品価値が大きく損なわれる。被害を受けやすいのは9月中旬以降に収穫するもので,それ以前に収穫の早生グリには被害はあまり見られない。
クリの類はいずれも原生種の利用価値が高いため,それぞれの地域で古くから利用されてきた。中国では,紀元前5000年ころの仰韶文化に属するといわれる半坡遺跡でクリ,ハシバミなどの堅果が発掘され,3000年前には陝西に栽培があったといわれる。『詩経』『論語』『周礼』などにも表れ,2100年前には経済栽培があり,良品種が栽培されたという。日本におけるクリの利用は野生種シバグリの利用に始まり,その歴史は古く,『古事記』に記載がある。奈良朝から平安朝にかけては大果の品種も現れた。
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●ギンドロ(銀泥 Populus alba)
ヨーロッパ中南部から西アジアを原産とするポプラの仲間で,明治中期に日本へ渡来した。白黒の線画では表現しづらいが,その名のとおり葉の裏が白く銀色に輝く美しい葉を持つことが特徴で,遠くからでもよく分かる。リースやドライフラワー,押し花などの花材として人気が高い。他に公園樹,街路樹,北海道北広島市では防風林として利用されている。花は4月頃,葉より早く尾状花序を下に垂れる。雌雄異株。
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●トウグミ(唐茱萸 Elaeagnus multiflora)
果実が,お菓子のグミと関係があるかと思ったら無いらしい。果実は7月に成熟し,同じグミの仲間であるナツグミやアキグミよりも大きくなる(直径3センチ程度)。渋味がほとんどなく甘みもあるため生食に耐える。表面に銀白色の星模様があるのが特徴。中国を意味する「唐」とは名付くものの,日本の在来種で,北海道,本州に分布する。
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●テマリカンボク(手毬肝木 Viburnum opulus var. calvescens)
スイカズラ科ガマズミ属の落葉樹。紫陽花に似た花を咲かせる。葉は円形ないし楕円形で,楓の葉のように浅く3つから5つに裂ける。 手毬型の花が咲くものには同属の大手毬(オオデマリ)があるが,こちらは葉が卵形で裂けないので区別できる。
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●サトウカエデ(砂糖楓 Acer saccharum)
カエデ科の落葉高木。樹液に砂糖分を含むのでサトウカエデの名がある。アメリカ北東部からカナダにかけて森林を形成している。高さ40メートル,幹の直径90cmに達する。葉はカナダの国旗にデザインされているもので,9~15cmの大きさで対生する。秋の黄葉が美しいので街路樹や庭園樹にする。4~5月,新葉とともに黄色の花をつける。樹液は,3~4月中旬に,管を挿入して容器に受ける。液は2~5%の砂糖を含み,煮つめてメープルシロップをつくる。
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●ヤマグワ(山桑 Morus australis)
沖縄のシマグワとは同一とされるが,沖縄産は果実の甘味が強く,年3~7回結実する。
葉は互生,有柄で,卵形または広卵形。分裂しないものから,2~5裂するものまでさまざま。基部から3主脈が出る。縁には大小の鋸歯がある。
樹皮は灰褐色で,縦に細かいすじがある。カミキリムシの幼虫をはじめ食害されることが多く,古い木は荒れた感じになる。枝や葉を傷つけるとアルカロイドが含まれている白い乳液が出る。乳液は虫害を防ぐ効果があるが,蚕はこのアルカロイドに耐性を持っている。
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●ノムラモミジ (野村紅葉 Acer palmatum var. amoenum cv. Sanguineum)
イロハモミジ(Acer palmatum)の園芸品種で,江戸時代から庭木として使われる。濃紫紅葉とも書き,アントシアニンが多いため,常時紅葉している。暖地では,夏になると葉の色は緑色に変わるが,秋には再び紅葉して色づく。春から秋にかけての色彩の変化が楽しめる樹木である。
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●ハウチワカエデ(Acer japonicum)
秋の紅葉がとても美しく,葉が掌状に9~11裂し,楓のグループの中では最も大きい。花もカエデの中では大きい方で,直径1cmほどあり,紅色の萼片が美しい。学名は,日本を代表する意味と捉えることができる。属名の Acer は「裂ける」という意味のラテン語からきていて,種小名の japonicum は「日本の」という意味である。
「カエデ」と「モミジ」の植物学的に明確な区別はなく,一般的に葉の切れ込みが深いものがモミジ,浅いものがカエデと言われやすい。
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●ヤシャブシ(夜叉五倍子 Alnus firma)
カバノキ科ハンノキ属の落葉高木。日本固有種で,西日本に多く自生する。マメ科ではないが,根粒菌と共生するため,緑化樹木として利用される。ヤシャブシの名の由来は,熟した果穂がタンニンを多く含み,五倍子(フシ)の代用とされ,オハグロに使われた。
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●ネグンドカエデ(Acer negundo)
図鑑で調べる前までこれをカエデとはわからなかったが,アメリカ太平洋沿岸を原産とするカエデの仲間。欧米や中国北部で古くから街路樹として植栽されており,日本には1800年代に渡来した。北海道を中心として公園や街路に使われる。
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●リョウブ(令法 Clethra barbinervis)
リョウボ(良母)とも呼ばれる,リョウブ科の落葉小高木。若葉は山菜とされ,庭木としても植えられる。昔は,飢饉のときの救荒植物として利用された。日本以外では韓国の済州島に自生する。7月から9月に枝先に長さ10~15cmの花穂をつける。
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●ヌルデ(白膠木 Rhus javanica )
ヌルデは落葉の小高木で,樹高7mほどに成長するとされているが,大きくなることは少ない。伐採などの撹乱跡地にいち早く生育する代表的な先駆樹種であり,比較的水分や土壌条件の良い場所に生育する。種子は土中で20年以上の寿命を保っているという。土の中で粘り強く伐採や倒木などの撹乱を待っている植物の1つである。
果実の表面にはワックスがあり,果実を集めて手で揉むと濡れたような感触がある。それでヌルデと呼ぶのかと思えば,傷つけたときに出る白い汁を塗り物に使用することに由来するという。ヤマウルシなどに比べるとかぶれにくいようで,よほど敏感な人でなければかぶれない。果実の表面には塩分があり,鳥に好まれる。
ウルシ科の植物は,その強弱はあれどかぶれることが多く,ヤマウルシは触らなくても,近くを通っただけで痒くなる人がいる。ところが,証拠は乏しいが,ウルシにかぶれる人は,ツバキ科の植物を食害するチャドクガの幼虫にかぶれにくい傾向があるように思う。幼虫は一列に並んで隣の枝に移動していく。何らかの刺激があると,思い出したように頭を上げ左右に振るのを見ることが出来る。数十匹の幼虫が一斉に同じリズムで頭を振る姿はユーモラスである。この行動により,かぶれの原因となる毒針毛を飛ばしていると考えられる。知人の異色の造園家は,害虫の生態を理解するため,自宅の一部屋を害虫にあてがっおり,チャドクガも飼育していた。満月の夜に孵化したという。
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●ムラサキツメクサ(紫詰草 Trifolium pratense)
「雑草という草はない」と,小学校の校長先生が朝礼で話していた。その話は全体として何を言っていたのかはよく覚えていないが,生徒一人ひとりに名前があり,雑草のようにたくましく育ってほしいという話だったような気がする。
雑草は,踏まれても踏まれても立ち上がるたくましさの象徴,という印象があるが,実は他の植物との競争に負けているという面はあまり知られていない。雑草を森林の中で見たことはあるだろうか。一見どこでもしぶとくていけそうだが,太陽光を充分にもらうことができなければ,多くの植物が生存競争を繰り広げる森林では生きていけない。また,地中の養水分競争にも強くない。そのため,痩せた土地や踏みつけられやすい場所,土砂崩れなどで森林に空いた空間などの生態的隙間(ニッチ)をみつけ,競争から逃れて生きている。
ムラサキツメクサは,道端に普通にみられる最も馴染みのある雑草の一つだ。牧草や家畜飼料として広く栽培されているほか,土壌を肥沃にする空中窒素固定作用もあり,緑肥としても利用される。むき出しになった大地にかさぶたで覆うように土を保護し,次に現れる植物の下地をつくっている。
ムラサキツメクサは,南欧原産で,マメ科シャクジソウ属の多年生野草。日本では北海道から沖縄まで分布する。
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●ズミ(酸実 Malus toringo)
リンゴに近縁な野生種である。語源は,染料となることから染み(そみ),あるいは,実が酸っぱいことから酢実,とも呼ばれる。
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●ミズキ (水木 Cornus controversa Hemsley)
低山,原野で普通に見られる落葉樹。陽樹。湿潤で肥沃な土壌を好む。春先に枝を切ると水が滴り落ちることが「水木」の名の由来。よく街路樹に植栽されるハナミズキ(花水木 Cornus florida)はアメリカ原産で,花がピンク色をしている。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20221224/21/minegishinobuyuki/67/40/j/o3488245815220531050.jpg?caw=800)
●イヌコリヤナギ(犬行李柳 Salix integra)
北海道~九州の乾燥した場所にも生えるが,川沿いに多く,最も普通に見られるヤナギ。高さは1.5mほどで,株立する。ヤナギでは珍しく葉は対生する。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20221224/21/minegishinobuyuki/24/6b/j/o1729168415220533913.jpg?caw=800)
●ベニバナハリエンジュ(桃色針槐 Robinia pseudo-acacia cv.Purple Robe)
ニセアカシアの園芸品種で,花は薄紅色を帯び,ずんぐりむっくりしている印象がある。
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●ヨーロッパトウヒ(Picea abies)
ヨーロッパ原産の常緑針葉樹。通直性に優れた大高木で原産地では高さ60m,直径2mにも達するという。分布はギリシャ北部を南限とし,北極圏(スカンジナビア半島)まで広がる。肥沃な土地を好むが低地の泥炭地から森林限界付近まで生育範囲は広い。浅根性のため風害や乾燥害を受けやすい。ヨーロッパに分布するトウヒ属の代表格であるとともに,ブナ,ヨーロッパアカマツと並ぶ主要な造林樹。
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●シラカバ(Betula platyphylla var. japonica)
北海道・岐阜県以東の本州に分布する落葉高木。樹皮は白く,シラカンバ(白樺)の由来となっている。横に引き延ばされた皮目が点々とあって,白い樹皮にコントラストを与えている。種子は鱗片とともにばらけて散布される。種子には翼があり,風で散布される。
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●シモツケ(下野 Spiraea japonica)
バラ科シモツケ属に分類される落葉低木の1種。別名,キシモツケ(木下野)とも呼ばれる。本州,四国及び九州に分布するバラ科の落葉低木。日当たりのよい山地の草原や岩場に自生するが,他に花の少ない夏季に長く咲き続けるため,観賞目的で庭木として栽培されることも多い。日本以外の東アジアにも見られる。赤い花をつける。
下野の国(現在の栃木県)に自生が多かった,あるいは最初に同地で発見されたことから,シモツケと命名されたとされる。ただし,これには疑義もあり,花穂に霜が降りたように見えるため「霜付け」となったという説もある。
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●ダイコンソウ(大根草 Geum japonicum)
初夏から夏に可愛らしい花を咲かせる多年草。ダイコンソウ(大根草)は葉がアブラナ科の大根の葉に似ていることからこの名が付いた。けれども,ダイコンとは全く関係が無く,根が太いわけでもない。
日本では北海道~九州の山野に自生している。草丈は50~80㎝ほど。全体にやわらかな毛が密生していて,花は黄色で直径1.5~2㎝。花が終わると小さないがぐりのような実ができる。これは人や動物の服や毛にくっついて種を遠くまで運ばせようとする動物散布型種子,いわゆる「ひっつきむし」である。
花は,明るい色をしていることから「希望にあふれる」というような前向きな花言葉になったという説があったり,種が人や動物などにくっついて遠くまで運ばれて未来が開けるという説などがある。
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●ギボウシ(擬宝珠 Hosta sp.)
ギボウシ属は世界の温帯地域で栽培されている多年草。野生種は東アジアの特産で,最も多くの種が分布する日本列島では各地に普通に見られる。海岸近くの低地から亜高山帯,湿原から岸壁まで生育環境も多様。
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●モクゲンジ(木患子 Koelreuteria paniculata)
『落葉広葉樹図譜-冬の樹木学』(斎藤新一郎著)に感動し,冬芽をスケッチしてみた。本州(日本海側,宮城県,長野県)の日当りのよいところに生える。高さは10mほどになる。冬芽は円錐形。芽鱗の縁には毛がある。葉痕はハート形。
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●サンショウ(山椒 Zanthoxylum piperitum)
土用丑の日にはうなぎにサンショウをたくさんかけて食べたくなる。しびれるような辛味成分サンショオールは,食欲増進や胃腸の働きを活発にし,抗菌や殺菌作用もある。料理に添えられる若葉は食材として木の芽とも呼ばれる。うなぎだけでなく桃とも良く合い,カマンベールを添えて食べると洋風の酒の肴として美味しく頂ける。
サンショウ科・サンショウ属の落葉低木で,山地の雑木林などに自生する。名前の由来は,「椒」の字には芳しい・辛味の意が有り,山の薫り高い辛味の実であるため「山椒」の名が付けられたと考えられる。
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●サワラ(椹 Chamaecyparis pisifera)
長野県でスケッチした。本州北部から中部,中国を経て九州に至る。木曾地方・飛騨地方に多く,江戸時代には木曽五木の一つに指定され保護されていた。幹高は30mに達する。建築材,器具材のほか,桶や障子・襖の組子の材となる。
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●スギ(杉 Cryptomeria japonica)
花粉症の原因として,いつの間にか悪者扱いされてきたスギの木。実は昔から日本人と深い関わりを持ち,大切に植林,管理されてきた日本固有の植物であることは意外と知られていない。学名,クリプトメリア・ヤポニカは「隠された日本の財産」を意味する。1種1属の常緑針葉樹で,日本にのみ生育する固有種。環境に適応する力が高く,病害に強い上に成長スピードも速く,二酸化炭素(CO2)の吸収量も大きいという優れた特徴をもつ。
2021年,気候変動に関する科学的分析や予測などをまとめる国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は,人間の活動が温暖化を引き起こしていることは「疑う余地がない」と初めて報告書に明記した。「疑う余地がない」とは,国立環境研究所の江守博士によると「100%」の意味である。2010年頃は,地球の気温上昇が止まったこともあり,CO2削減は原子力を推進する者たちの陰謀だなどと主張する温暖化懐疑論が盛んになったが,近年は実際に気温が再び上がり,懐疑論は声を潜めている。地球の周期で気温が下降に転じるのはIPCCのシュミレーションによると五万年後だという。たった数百年で気候を大きく変化させてしまった人類なので,五万年後まで生存できている分からないが,スギは存在するだろう。植林されたスギ林は放置され,日本の山は荒れていると言われて久しいが,近年の円安により日本の木材自給が向上するとの予測もある。「日本の隠された財産」は,木材としても,環境対策にしても,今後の日本を救ってくれることになるかもしれない。
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●コウヤマキ(高野槙 Sciadopitys verticillata)
コウヤマキは,古くから存在するコウヤマキ科 (Sciadopityaceae)の現存する唯一の種である。その日本 における価値は,生態学的にも文化的にも高い。かつては世界中に広く分布していたが,新第三紀では北アメリカで,更新世にはヨーロッパでも滅び,自生集団は日本にだけ残存している。
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●イヌガヤ(犬榧 Cephalotaxus harringtonia)
岩手県以南から南九州の山地に分布するイヌガヤ科の針葉樹。植物名に「イヌ」がつくのは「役に立たない」という意味である。葉がカヤに似るものの,カヤのように実(正確には種子)を食べることはできない。日本のほか朝鮮半島や中国の暖地,東南アジアに見られる。
北海道には同種の変種であるハイイヌガヤ(Cephalotaxus harringtonia var. nana)を多く見るが,これはその名の通り,上に伸びず地面を這うように生きている。豪雪地帯では雪の重みで折れないように,柔軟に生きているということだろう。
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●ハイマツ(這松 Pinus pumila)
中央アルプス木曽駒ヶ岳で,尾根筋の厳しい環境に耐えるハイマツ群落を見た。これは山岳地帯の環境が厳しい森林限界(環境によって高木が育たずに森林を形成することができない境界線)付近で地面を這うように,また絶滅危惧種の鳥類であるライチョウなどを育み,たくましく生きている。筆者も地面を這うようにしぶとく生きなければならない。
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●エンジュ(槐 typhnolobium japonicum)
中国北部を原産とするマメ科エンジュ属の落葉高木。性質が丈夫で管理に手間がかからないことや木全体に薬効があることから,日本全国に街路樹あるいは公園樹として植栽される。ハリエンジュ(Robinia pseudoacacia)は北アメリカ原産の落葉高木で,ニセアカシアの別名である。
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●アカソ(赤麻 Boehmeria silvestrii)
高さ50~100cmの多年草。古くは衣服などの植物繊維の材料とされた。山地のやや湿った部分に生育し,北海道,本州,九州,朝鮮半島に分布する。
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●リンゴ(Malus)
一般的にリンゴと呼ばれているものは,植物学的にはセイヨウリンゴというバラ科の落葉樹。原産は中央アジアであり,西廻りおよび東廻りで世界中に広まった。紀元前から栽培され,世界中で最もよく食べられている果樹の一つである。7500以上の品種が栽培されており,亜寒帯,亜熱帯および温帯で栽培可能である。暑さに弱いため,熱帯での栽培は難しい。
不可能とされた,リンゴの無農薬栽培に成功し,映画『奇跡のリンゴ』のモデルとなった木村秋則氏の話は,津軽弁で語りかけるような口調が人の心を動かす。木村氏の奇跡のリンゴの正体の重要な要素は土壌菌の力だという。土の力は,物理性,化学性,生物性,で決まるが,最も研究が遅れているといわれるのが生物性である。驚くべきことに,小さじいっぱい(1g)あたりに約1億~1兆の土壌菌(微生物)が存在するといわれている。したがって小さじで土をすくうと,そこには日本の人口以上に相当する生きものが存在していることになる。そして,それぞれが複雑な働きをしていて,そのほとんどが明らかにされていないだろう。
木村氏は奇跡の起こし方についてこのように語った。「答えはいつもすぐ近くに,でもいつもは見えない世界にある,その見えない世界に気づく視点を持つことが大事,“答えは必ずある”」と。
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主な参考文献:
・牧野富太郎(2004)学生版牧野日本植物図鑑,北隆館,446pp.
・馬場多久男(1999)葉でわかる樹木 625種の検索,信濃毎日新聞社,396pp.
・Wikipedia