これはもらってきて、
1年前後くらいの時のジャンです。
さて
ジャンにはママ犬ナナがいました。
ビーグルの雑種なのか、
ビーグルそっくりで、ビーグルよりも足が長かったです。
ナナの飼い主は木山さんという女性でした。
木山さんは、ずっと横浜で暮らしていました。
定年した夫と独立した子供達。
木山さん夫婦は
故郷の九州に帰ることを決め、九州の山あいに家をたてました。
そして、
新しい生活を始めて間もなく、
木山さんの夫は、突然亡くなってしまうのでした。
さらに
途方にくれる木山さん自身に、糖尿病が襲いました…
目が見えなくなってしまったんです…
しばらくは
大学病院で治療や手術をされましたが、効果はなく
木山さんは、
生まれ故郷の、
実家のお兄さん宅に、ナナちゃんとともに、一旦身を寄せる事となりました。
そして、
若くして盲目となった木山さんは…お兄さんのお嫁さんの強い反発もあり、
実家にいずらい状態でした。
そのため、日中は毎日、
私の施設を利用されるよーになりました。
木山さんは、
言葉も標準語で、
色白で、優しく美しい方でした。
まったくの盲目の方に
対応するのは、とても難しいことなのですが、
木山さんは、
対応するスタッフにも、周りの高齢者にも
いつも笑顔でした。
私達が気を使わなくてもすむよーに、
反対に明るく振る舞う方でした…
木山さんを、私がお風呂に入れてあげる当番の日
『ミネさんの声はね、
入院してた時に、良くしてくれた看護士さんの声にソックリなの。
1番に覚えたわ☆』
そーいって
私をまるで励ましてくれているみたいに、気遣ってくれてるみたいな事を言ってくださいました。
真っ暗闇の中、
裸で入浴するのは、とても怖いことなのに。
木山さんは、そんな人でした。
そして夏、
『木山さんちに、子犬が生まれたね~コロコロしてるよ~』
って、
木山さんをお迎えに行った職員が言いはじめました。
私も、ナナママが産んだ、4匹の生まれたての子犬を送迎のたびに見るのが楽しくなりました。
木山さんも、
同居するお兄さんのお孫さん達が、
『子犬達に名前つけ始めたのよ。』
だとか、
『土日はデイサービスお休みだし、
家族もみんな出かけちゃうから寂しくて…コッソリなんだけど、
子犬をね、お部屋にあげちゃうの…内緒なんだけどねー』
毎日毎日、
木山さんと他の職員たちも、子犬の話しでもちきりでした。
笑顔が耐えませんでした。
でも、
一方で、
お兄さんのお嫁さんの、
木山さんに対する暴言はひどくなる一方でした…
『何で、うちが義姉さんの面倒みなきゃいけないの』
『この人は他人よ』
等という言葉は、
私達スタッフの前であろうとかまわず吹き出しました。
木山さんは
時々静かに泣いていました。
突然目の見えなくなってしまった人にとって…
今すがれるものは、お兄さんだけだったでしょう
義姉さんは決断したよーでした、
『犬まで連れて帰ってきて、今度は子犬まで!
もう我慢できない』
『保健所に電話するわ』
11月のある朝、
いつものよーにお迎えに行きました。
いつも通りに木山さんは、玄関に座っていました。
そして私に木山さんは言いました。
『ミネさん今日で最後なの。朝のうちに、保健所から迎えにくるんですって。
ジャンの事かわいがってくれたのに、ごめんなさいね。』
『え?今日なんですか?』
『そう、孫達も学校行ってるうちがいいから。見ない方がいいから。
1番上のお兄ちゃんがね、悲しむといけないから…』
木山さんは、
運命を受け入れて穏やかでした
一方、
私は我慢できませんでした。
木山さんは横浜にいる時から犬好きで、
大家さんに内緒で、アパートのたたきでこっそり犬を飼ってた事もあるくらい…
木山さんは犬が大好きなんだもん
もーいいやん。
これ以上傷つけないで。
何故かわかりません
私は頭に血が上っていました。
たぶん
ケアの方針会議をした時、私の前で、
義姉さんが木山さんに
『この人は他人。家にいていい人じゃないんですどーせ』
私はたぶんあの日から
腹がたっていたのかもしれません
対人援助をする仕事につく者としてはプロ失格ですね…
『じゃあ、私にください。いらないんだったら、子犬は私にください。
ナナちゃんの事ももらいたいけど、親に何も相談してないから。
とにかく、そーさせて下さい。
仕事終わったら、取りにきますから待っててください!』
あんまり覚えてないんですけど、
反射的に私は、木山さんちの玄関でそういいました。
私の仕事は
個人の家庭事情を知り、それに合わせて対応していかなければいけません。
感情的に個人の家庭事情を非難したり、
意見することはありません。
個人のプライバシー、長年の家族間のしがらみ、
外の人間は、
ただ法律に沿った援助をするだけです。
後にも先にも
こんな事を
腹が立って、
人様の玄関先で言ったことはありませんよ。
これ一回きり。
約束どーり、
仕事が終わって暗い中、
私は木山さん家に行きました。
ママのナナちゃんだけは、保健所に連れて行かれていませんでした。
車の後ろ座席に、
まず、
もうウトウトして眠くなってる妹パンを乗せました。
そして次はジャン。
ジャンは違いました。
今朝知らない車で、
ナナが連れて行かれるのを見ていたのです。
だから、車は危険だって、ちゃんと分かっているようでした。
木山さん宅の庭中を逃げ回りました。
私にもなついていたはずなのに…
やっと
垣根と家の隙間から、
私は無理矢理子犬のジャンを抱き上げました。
泥だらけ。
車の中に入れると、
妹の上におおい被さって、ジャンはしっかり私の目を見ました。
それは、妹を守る目でした。
木山さんのお兄さんが
しばらく分のドッグフードをくれました。
優しいお兄さんでした。
同居する息子さん夫婦も、外に出てきて
お礼を言ってくださいました。
でも、
6年生の孫の男の子だけは出てきませんでした。
お家の中で泣いていたんだそうです。
ジャンと離れるのが嫌だって言って…
なんて優しい子
ほんとに、保健所じゃなくてよかった。
彼の為にも、木山さんの為にも。
ジャンは、
この家の家族の一員だったんだなって感じました。
『ジャン』は、その男の子がつけた名前なんです☆
だから私も…
そのままジャンって呼んでるんです。
木山さんが
『まだ子犬だから、ミネさんが好きな名前に変えても覚えちゃうわよ』
って言ってくれたけど、
私は、
その男の子がつけた名前の方がゼッタイいいからと言いました。
もし少年が
会いに来てくれた時に、ジャンって呼べば
ジャンが喜んで、猛ダッシュで走ってこれるから。
ジャンはちゃんと育てますって、
木山さんと、少年に誓った犬です☆
そして、
私に仕事では、
ちょっとしたルール違反をさせた犬☆
ジャンはたくましく、幸運な犬です。
健やかさのかたまりです。
出会いは、どんな形で待っているかわかりませんね。
ジャンが私達家族にまで、
今みたいな幸せをもたらしてくれるなんて
私は木山さんと、
木山さん家族に感謝しています。
