実は、東京に転勤になった彼とは、
その後3度会いました。
一度目は、転勤してすぐの8月。
東京の連絡先は教えてくれていたので、
横浜の友人に会いに行くついでに(どちらがついでなのか
)
連絡したら、東京駅に迎えに来てくれました。
お昼ご飯に、有名なお蕎麦屋さんに連れて行ってもらい、
彼のアパートにも行きました。
男一人で暮らしている感じでした。
今までと全然変わらない態度で接してくれて、
東京での生活や仕事についても話してくれて、
「あれ、本当に私達って別れたのかな?」と錯覚するほど。
でも、一言も復縁の話はでませんでした。
二度目は、その年の10月頃。
「今帰ってきてるので、そちらに寄っていい?」と電話があり、
いつものように、私のアパートへやって来ました。
いつものように、ドアをノックする前に、
外廊下からキッチンの窓を軽くコツコツとたたいて。
そして、またまた、以前と変わらない態度で、
一日、私の部屋で過ごして行きました。
あれ、やっぱり私達このまま続くのかなあ、と思ったのも束の間、
帰る時、「さようなら。部屋の鍵、チェストの上に置いておいたから」
そう言って、いつもと同じように帰って行きました。
私は、また泣いてしまいました。
三度目、2年後の夏。
仕事の関係で、東京に行きました。
迷ったけど、彼の勤め先に電話をかけてみました。
(こういうストーカーみたいな事、したくなかったのですが・・)
私は、宿泊しているホテルを教え、夜、仕事終わりの彼が来ました。
『少し太ったな』というのが、彼を見た第一印象。
彼も私を見て、「随分雰囲気変わったね。大人になった」
『そりゃあそうでしょ、失恋を経験したんだから』と、内心思いながら、
にこやかに、彼が持ってきたお寿司をつまみに、缶ビールを飲みました。
二人で以前と変わらない夜を過ごし、
そして朝方、彼は帰る前に、
「今度は、いつ会える? 時々こうして会いたいね」
「今度東京へはいつ来るの?」
私が東京へ来るのを前提に話をしてきました。
私は、ここでも、にこやかに彼をドアまで送り出して、
「今日で最期。さようなら」
何かいいたげな彼を押し出して、ドアを閉め、
やっと、何か吹っ切れた気がしました。
私は、彼の左手の薬指に、指輪の跡がうっすら残っているのに気づいていました。
そして、何だか彼が、すごく欲求不満っぽい感じにも気づきました。
大方、結婚して奥さんが妊娠中か、
出産後の里帰り中なんだろうなあと、
勝手に想像し、笑えてきました。
以前、私の昔の不倫相手の事をなじり、
例の宝石店の社長の事をなじっていたのに、
彼も全く同類になっていました。
男って、結婚すると同じだ
この時、私の彼に対する思いは消え、
彼の顔色を伺いながら行動していたそれまでの自分を恥じ、
これからは、本当に、気持ちの上でも彼なしで生きていける、
そう実感しました。
でも、いい思い出をありがとう。
これだけ、愛することができたのは、一生の宝です。
今は、静かに、穏やかに、懐かしく思い返す事ができます。