さむがりやに毛布を,さみしがりやに温もりを. | 雨のあとのにおい

さむがりやに毛布を,さみしがりやに温もりを.

昨日の喜びは今日の悲しみだ.

今日の悲しみが明日は何になるだろう.


揺れ動く自分の感情のせいで,

世界はめまぐるしく変わっていく.

昨日やさしく頬を撫でていた風が,

今日は肌を刺す.

静かに流れていた音楽が,

悪意を持って聞こえてくる.


10月はだめだ.

金木犀の香りも,

朝のひんやりとした空気も,

草の香りが混じった夜のにおいも,虫の声も,

澄んだ空の色も,風も,葉が落ちた木々も,

秋のすべてがからだ全体を感傷で満たす.


あの10月をからだは覚えているらしい.

頭ではよく思い出せなくなってきても,体の芯にはちゃんと残っている.

それがよいことなのかよくないことなのかはわからないけれど,

時々持て余しそうになる.

だから,気づかぬうちに誰かに頼りたくなる.

すがりたいような気持ちになっている.

温めてほしいと思う.

しかしそれは誰かを傷つける.

自分の都合は自分の都合でしかない.

この涙は誰かの涙とは違う.

分かり合えないのを解っていて,それでも解ってもらいたいと思う.

そして空しくなる.

自分勝手に振舞って時間が過ぎていく.

葉が落ちる.


はじめからわかっていたこと,

毛布を出そう.

10月のこの震えは自分の熱で温めてやるしかない.

いつかくる,いつかまで.