春の遠足 後編
朝早くから起きてあれこれ済ませた後、駅の本屋で竹光侍の最新刊と
吉田健一の「酒肴酒」を購入して津市にある三重県立美術館へ。
津に着くまでに竹光侍を読み終え、とんでもないなとしみじみ思う。
空もよく晴れ、あたたかい陽射しのなか、駅から歩いて美術館に向かう。
「液晶絵画 Still/Motion」展は最終日ということもあり、多くの人で賑わっていた。
森村泰昌からはじまり、やなぎみわ、イヴ・サスマン等、
液晶画面を使用したユニークな作品が続く。
その中でも目を引いていたのは
サム・テイラー=ウッドの2作品、「still life」と「little death」だった。
静物画と見紛う画面は液晶で、
置かれた果物や壁に立てかけられた兎の死骸が
時間とともに経ていく変化を余すことなく映し出している。
とてもショッキングな映像でありながら、画面の美しさや、
えもいわれぬ魅力に引き入られるように、その場から離れることができない。
そのほかにも、さまざまな映像作品が展示されており、
映像表現のもつ面白さや気味の悪さを感じさせてくれた。
美術館の前の桜はまだ見頃であり、少しぼんやりとしてから駅方面に向かう。
駅前の鰻屋でちょっとタレが濃いめの鰻丼を食べて帰宅。
さっきまで天気がよかったのに、いつのまにか雨がぱらぱらと落ちてきたので、
急いでユキと散歩に行き、夕方の始まるころに昼寝した。
目が覚めると、すっかり夕方も終わって夜。
東京、三重を巡る旅がまるで夢だったかのように思われ、
確かめるようにパンフレットや買ってきたものをしげしげと眺めていると、
この旅の色々なものとの出会いが何か花の蕾のようなものになりそうな気がして、
なんだかとってもあたたかいようなうれしい気分になっていた。
