でも、こんなに昔のことを何故今思い出したのだろうか。
少しは覚えていたけれど、グレーテルに話しているうちにもっと色々なことを思い出した。
というか、逆に何故今まで忘れていたのだろう。
母さんの死後に母さんの声が聴こえたことなんて、全然覚えていなかった。
僕の記憶は曖昧になっているのか。

『お兄ちゃん。私ね、思っていたんだけど……』

『なんだい?』

『さっきの話では、お母さんは昔怖い人だったんだよね。でも、私には優しかったよ……この間までは、だけど』


そうか。
そう言えば、つい最近まではいい人だったな。
僕も、昔のことを忘れていたから、あの人がこんな人だと思わなかったし。
あ、でも……たまに僕にだけ冷たいことがあったかも知れない。

『母さんは、多分グレーテルのことを心から愛しているんだと思うよ』

『だったら何故、私を捨てたのかな。普通の親子だったら、子供を捨てるなんてことがあるはずがないし……。それにさ、さっき……お母さんが、私のことを厄介な子だって………。お母さんは最初から、私が10歳になったら捨てようって思ってたのかなぁ……?お母さんはずっと私のことを厄介者とか、面倒だとか思っていたのかなぁ?」』

『それは………』


厄介者、か。
確かにそんなことも言っていたな。
でも、僕からすれば、“私の子供”って言ってくれたんだから充分だと思う。
だってその言葉は、グレーテルをまだ愛している証になるのだから。