ねえ母さん。
『ユルス』って、何だったっけ?
僕、忘れちゃったよ。




〈〈本当に覚えていないのかしら?〉〉



……え?




〈〈覚えている筈よ。あなたはとても優しい子なのだから〉〉



か…母さん?
母さんの声が聴こえる?



〈〈ヘンゼル……私の愛しい子……〉〉



やっぱり母さんだ。
何だかとても懐かしい。



〈〈ヘンゼル、人を赦すっていうのはね、とても難しいことなの〉〉



そう……なのかな。
よくわからないや。
でも、その『ユルス』ってことは 、大事なことだっていうのは解る。
何故だろう。



〈〈そうよ、とてもとても大切なこと。そして、それを本当の意味で忘れてしまったらいけない。忘れた瞬間に、あなたは永久にこの世界を彷徨うことになってしまうのだから〉〉



彷徨ったらどうなるの?



〈〈それについて詳しいことは分からないわ。でも、これだけは分かる。もしそうなったら、あなたはクローヌを見つけられない。クローヌを見つけなければこの世は灰色に染まってしまうわ〉〉



クローヌって、何?
人間なの?
それとも花とか薬草とか、そんな感じのもの?
それに、灰色に染まるって、どういうこと?



〈〈……ザ……ろ…は………ザザ……んよ…〉〉


急に声が乱れる。



え、何?
聞こえないよ?



〈〈……ら……ザ…にん……ザザ……の…〉〉



何を言っているの?
全然聞こえないってば!!



〈〈…ザザ………ザ…ザ………ザ…〉〉




母さんの声が聴こえなくなった。


今聴こえるのはノイズ音ばかり。
他は何も聴こえてこない。
母さんの声も。
僕が呼吸する音も。
何もかも。