「あなたのお母さんは、私が殺したの…。」








そのとき僕は、あまりの衝撃に呼吸が止まりそうだった。
夢を見ている様な感じがした。




「ヘンゼル……ごめんなさい……」




あの人は、さっきとは打って変わってとても弱々しい女性に見えた。
気のせいか涙まで浮かんでいるようにみえる。



「あの人は、この私の目の前で死んでいったの……。あの恨めしそうな目……ああ、頭から離れない!!」


彼女は頭を抱えて身悶えする。


「ごめん、ごめんねヘンゼル!ねぇ、私謝るから!!だから赦して!!」



ゆ……る…す……??


「ごめんなさい、私が悪かったの!!ううん、違うの、本当は悪くないの!!悪いのはリューディアさんなのよ!!」



彼女は絶叫している。
何故そんなにも僕を怖がっているのだろうか?
ついさっきまで、泣いているのは僕だったのに。
でも、言っていることが矛盾しているから、どれが本当なのかがわからない。




「あいつが、あいつがペーターを盗んだの!私がずっと彼と付き合っていたのに、あいつが横取りしたの!!いくらペーターが格好良いからって、恋人を盗むなんんて……。あんまりだわ…」




どうやらこの人は、ずっと父さんと交際していたらしい。
でも……。



「父さんは、母さんがハツコイノヒトって言ってたもん。初めて好きになった人だって」



僕は母さんが死ぬ数日前、父さんと母さんの会話を聞いていた。
話していた内容の半分もわからなかったけれど、『ハツコイノヒト』という言葉の響きが面白くて、それだけは覚えていた。




「それは嘘だわ!!私は、私は2年間ペーターと付き合っていたもの!!それを、それを……」




話を聞いていて、僕は思った。

それは、激しい思い込みからくる単なる『サカウラミ』ではないかと。

それか、少しばかり頭がイっちゃっていて、現実と夢との区別がつかないのではないかと。
もしかしたらこの人は、父さんのことがずっと大好きで、父さんと母さんが結婚したことにショックを受け、心の病気にかかってしまったのではないか?


それならば納得できるかもしれない。
『可哀相な人』という風に見れるかもしれない。






でも。





母さんを殺したことは、また別の話になってくる。





いくら狂人がやったこととはいえ、絶対にユルスことはできない。











…………あれ………??












『ユルス』………って。













どうすることだったっけ……………??