彼女の後ろで扉が閉まった。


「ヘンゼル……」



僕は、自分の肩が少し強張ったことに気が付いた。
無意識に『この人は悪い人だから喋りたくない』と思っていた……からかもしれない。
彼女はそんな僕の様子に気付いたのか、軽くニヤリと笑った。


「何、そんなにあたしが怖いかい?全く、まだガキのくせして生意気な。そういうところが気に食わないんだよ‼」


何故知らない女の人に叱られなくてはならないのか。
……意味が分からなかった。


「あのねぇ、あんたはもう孤児みたいなもんなの。孤児ってわかるかい?親無し子ってことだよ。お前の母親は死んだ。父親は何処の誰かも判らない。あぁ、可哀想に」



この時、意外なことに僕はあまり驚かなかった。




何故驚かなかったのか。
心の何処かで『死』というものを理解していたからかもしれない。
本当は、母さんが死んだことや本当の父さんが居ないこと、そんなことを分かっていたからかもしれない。



いや。
違う。
本当は大体分かっていたのだ。
本当は理解していていた。
周りの人達に『まだまだ幼い子供だ』と思っていて欲しかったから。
そっちの方が何かと都合が良いっていうのが分かっていたから。
だから嘘をついて、周りの人達や自分までもを騙していた。



僕には、そんなことが出来た。




だって僕は他の子と比べて、とても賢しくて礼儀正しい………そして誰よりも演技が上手な幼児だったんだから。