涼「………」
その日は確か、高校3年の文化祭…の1週間前。
“背徳の事件”が起きる前の日々だったはずだ。
涼「朝か…」
気怠い。
学生であるが故の気分。
大人の目線で見れば、羨ましいことこの上ない気分。
涼「……ん?」
何を考えているんだろう。
学校行かなきゃ。
もう遅刻じゃん。
浮水 涼 は支度をして家を出た。
学校、教室、並んだ机。
「だから、違うんだってぇ~。」
当時の天才組、“無気力”と称された女子生徒
熊埜御堂 梓(くまのみどう あずさ)
彼女は“総合学科試験”において
浮水 涼の席と噂されていた6番目の席を奪取した女子だ。
梓「違うよぉ…」
彼女は何名かの男子生徒と談話しているようだが
何やら困っている様子だった。
涼「熊埜御堂。どうした?」
梓「あぁ~ミズ君おはよぉ~。」
相変わらず
おっとりを重ねて重ねて、更に重ねて、
それが長い歳月を経て積みあがったような、
今さっき起きたかのような表情で挨拶をしてきた。
髪はセミショートでやや明るい黒髪
顔の輪郭は凛々しいのだが、
緩んだ眼と首を傾げる癖があり、子供っぽい。
涼「何話してたんだ?困っているみたいだけど。」
「あぁ、浮水も聞いてくれよ!実はさ…」
どうやら、その男子生徒が言うことを要約すると、こうだ。
熊埜御堂 梓 は、つい最近、
山に出た熊を1人で退治したという噂が流れ出していて
実際のところ、熊の発見場所と、彼女の家は目と鼻の先らしく
当日、彼女は家に帰宅していた為、現場に行けることができた
また、退治された熊は、猟銃ではなく、鈍器のようなもので殴殺されたとのこと。
体育の体力測定において、
ハンドボール投げ測定不能(100m以降はネットが張ってあった為)という記録を叩き出した
彼女の所業ではないかと男子数名が問い出したという訳だ。
涼「成程、根拠も証拠もない、根も葉もない話か。」
ヤバい。滅茶苦茶どうでもいい。
退治していても、していなくても、俺には関係ない…
結論は決まった。適当に流して去ろう。
首を突っ込んだ自分がいけない。すまない熊埜御堂。
ところが、
「でさ、俺らの質問に対しての熊埜御堂さんの答えに、一つ引っかかってるのがあるんだよ。」
「そうそう。俺らはその意味がよく分からなくて…つい突っかかっちゃって…」
涼「ん?何を質問して、何を答えたんだ?」
Q、熊埜御堂さん、熊を見た感想は?
A、くまさんって意外と早く動けるんだなぁって思ったかなぁ…
「生きている熊を目撃しているんだぞ?そんな悠長なこと実際考えないよな?」
「だから、熊と戦ったんだよ絶対!そういう意味だよな!?」
梓「ふぇ~違うよぉ~」
涼「………」
浮水 涼 はこの答えに対しての意味をすぐに理解した。
涼「はぁ…みんな、熊埜御堂は天然だぞ?意味なんてないよ。」
「え?あぁそうなのか、あまり話したことなかったから…」
涼「………」
少々癪に障った。
涼「熊埜御堂。また昼飯をキープしに行くの手伝ってくれ。」
梓「えぇ~?」
涼「頼む。」
梓「分かったよぉ~…」
2人は食堂へと向かった。
食堂
涼「熊埜御堂。」
梓「ん~?」
涼「いくら面倒くさくても、話くらい聞いてやれよ。」
梓「…あぁ~ばれちゃったかぁ~。へへへぇ~。」
そう。最初から熊の事件のことなど聞いていない。
その日も家に居たのかも怪しい。
しつこくされたが故に適当な質問に、適当に答えたのだ。
それがたまたま混乱を生んでしまった。
涼「“無気力”め…」
