獣医師の動物病院裏ブログ。犬猫さんがモノじゃなくなることを夢みて。

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こんにちは。
36歳、2014年卒、開業8年目の獣医です。
日々の徒然を無責任に綴ります。
あくまでも一つの意見としてお受け取りください。

 

 

犬の乳腺腫瘍における内科治療は、「手術しないできないからやる治療」でもなければ、

 

「手術したあとにとりあえず足す治療」でもない。

 

腫瘍径3cm超、リンパ節転移あり、WHOステージIII以上、病理グレードⅡ〜Ⅲ、炎症性乳がん、肉腫成分を含む腫瘍。

 

このどれかに引っかかった時点で、外科単独で完結する確率は明確に下がる

 

ここからが内科の出番。

 

まず古典的な軸はアントラサイクリン系、ドキソルビシン。

 

用量は30mg/m²を3週ごと、合計4〜5回が基本。

 

外科単独群のMSTが約148日だったのに対し、外科+ドキソルビシン併用群でMSTが約463日まで延長した報告がある。

 

万能ではないが、「リンパ節転移あり」「グレード高値」の症例では、やらない理由より、やる理由の方が多いかもしれない。

 

次にシクロホスファミド。

 

単剤では弱いが、メトロノミック化学療法として使う意味がある。

 

低用量(10〜15mg/m²を連日または隔日経口投与)で、腫瘍血管新生と免疫抑制性環境を叩く。

 

これにCOX-2阻害薬を組み合わせるパターンも。

 

COX-2は犬の乳腺腫瘍の83〜95%で過剰発現し、血管新生、浸潤、免疫回避に関与する。

 

ピロキシカムやフィロコキシブを併用すると、in vitroではアポトーシス誘導、増殖抑制が確認されているし、

 

臨床でも生存期間中央値がドキソルビシン単独より延びたというデータがある。

 

副作用管理が前提だが、腫瘍に大人しくしてもらいたい治療としては理にかなっている。

 

カルボプラチンは、より進行例、もしくはアントラサイクリンが使えない症例で選択肢になる。

 

投与量は300mg/m²を3週ごと。

 

外科+カルボプラチンで生存期間が延長した報告はあるが、単独での強さは限定的だ。

 

ミトキサントロンは縮小効果は見られるが、生存期間延長効果は乏しく、補助療法の位置づけを超えない。

 

ホルモン療法についても触れておく。

 

犬の乳腺腫瘍はER、PR陽性例が存在し、特にPR陽性・低〜中悪性度腫瘍では、ホルモン依存性が示唆される。

 

プロゲステロン受容体(PR)標的薬だが、現時点では確立した治療プロトコルは存在しない。

 

分子標的治療も理論的には効くだろう。

 

というか大体これ一択になることが多いのも事実。

 

HER-2、EGFR、VEGFR、PDGFR、KIT。犬の乳腺腫瘍でもこれらの発現は確認されており、

 

トセラニブやマシチニブといったTKIは、in vitroでは抗腫瘍効果を示す。

 

ただし臨床データは乏しく、現時点では「標準治療」とは言えない。

 

上記のように教科書的には標準治療とはいえなくても、現場的にはこうなることが多い気もする。

 

最後に炎症性乳がん。

 

ここは別物。切除不能、DICや全身炎症を伴うことも多く、目標は延命とQOLの維持になる。

 

COX-2阻害+メトロノミック化学療法+支持療法。場合によっては放射線併用。

 

完全寛解を狙う病気ではない。

 

だからこそ、治療目標を最初に共有しないと、必ずどこかで破綻する。

 

犬の乳腺腫瘍の内科治療は正しく使えば確実に「時間」を作れる。

 

その時間をどう使うかは、飼い主と獣医師が一緒に決めるしかない。

 

 

さあて間延びしたので、ここで終了にします。

 

さて次からは何の連載になるのでしょうか。

 

では。

 

 

 

 

静岡県静岡市清水区の動物病院 みなとまちアニマルクリニックのオンライン相談です。

 

予後を決める因子は明確だ。

 

腫瘍サイズ、リンパ節転移、WHOステージ、病理グレード。

 

直径3cm以下、リンパ節転移なし、ステージI、グレード1。

 

この条件が揃えば、長期生存は現実的だ。

 

一方で、3cm超、リンパ節転移あり、グレード3では、術後半年〜1年以内に再発・転移するケースが珍しくない。

 

炎症性乳がんや肉腫成分を含む腫瘍では、平均生存期間が数か月に落ち込む。

 

数字はあくまでも数字だけど

 

案外に数字がわかりやすいので治療の組み立てはしやすかったりはする。

 

必要なのは、現実を数字で直視して、その子にとって何が最善かを考えることだろう。

 

早期発見がすべてを変えるのは事実だし、逆に発見が遅れたからといって、何もしないのが正解になるわけでもない

 

外科する意味、外科しない意味、治療する意味、見送る意味。

 

その全部を説明して、選択肢を提案するのが獣医師の仕事だと思っている。

 

犬の乳腺腫瘍は、決して珍しい病気じゃない。

 

でも、だからこそ「慣れ」で扱ってはいけない。

 

一頭一頭、毎回ゼロから考える。それが一番大事ー。

 

 

↑ みなとまちアニマルクリニックのオンライン相談です。

 

 

 

 

外科切除は、犬の乳腺腫瘍治療の一丁目一番地。

 

腫瘍のみの切除、領域切除、片側全摘、両側全摘。

 

どれを選ぶかは、腫瘍サイズ、個数、位置、皮膚浸潤、リンパ節、年齢、全身状態、すべて考慮して決めるしかない。

 

一般論として普通は変則切除になると思う。

 

未避妊犬では、同時に卵巣子宮摘出を行うかどうかも重要な論点になる。

 

これも普通はやると思う。

 

初回発情前の避妊で乳腺腫瘍リスクが0.05%にまで下がる一方、初回発情後で約8%、

 

2回目発情後で約26%まで上がるというデータは有名だが、発症後であってもホルモン環境を断つ意味は残る。

 

報告的には

 

外科単独で完結できるのは、3cm以下、リンパ節転移なし、低グレードに限られる

 

そこを超えた症例では、補助療法の話になる。

 

ドキソルビシン、シクロホスファミド、カルボプラチン、タキサン系。

 

外科単独群と外科+化学療法群で、全生存期間中央値が約148日から463日に延びたという報告もある。

 

ただし、すべての犬で有効なわけではないので

 

副作用、QOL、年齢、併発疾患と飼い主さんの考えなんか含めて総合的に判断すべき。