獣医師の動物病院裏ブログ。犬猫さんがモノじゃなくなることを夢みて。

獣医師の動物病院裏ブログ。犬猫さんがモノじゃなくなることを夢みて。

こんにちは。
35歳、2014年卒、開業7年目の獣医です。
日々の徒然を無責任に綴ります。
あくまでも一つの意見としてお受け取りください。

 

ここまで、犬と猫における透析の意味、適応、そして猫で特に難しい理由について書いてきましたが、

 

最後にどうしても触れておかなければならないのが、「透析には限界がある」という事実と、

 

「透析をしない」という判断もまた医学的判断であるという点です。

 

つまりはそれでもやりますか?ってことを僕らじゃなくて

 

飼い主さんにも判断基準を持っといて欲しいんです。

 

僕がいつも疑問に思うのは

 

医者にかかれば治るもんだと思ってる方が多いということです。

 

8割は思ったとおりにいかないと思ったほうがいいです。

 

医療ミスについて責めすぎる人も、あなたは今まで仕事で一度もミスしたことないんですか?と思っちゃいます。

 

もちろん擁護できない部分はありますが、手術すりゃ治るとか抗がん剤やれば長生きできるとか

 

そんなんやってみないとわからんです。

 

だから「やらない」ってのも立派な選択です。

 

今年ばあさんが死にましたが

 

痛み止め以外の一切の医療行為を拒否した最後でした。

 

ああ僕の遺伝子ってここから来てんだなとも思いました。

 

生き物は必ず死ぬってことから目を背ける人が多すぎる気がするんです。

 

もっと各々明確な基準を持つべきです。全員に平等に訪れることなので。

 

さあいきますか。

 

透析は腎臓の代わりに老廃物や余分な水分を除去し、電解質や酸塩基のバランスを整えることができますが、

 

壊れた臓器そのものを治す魔法ではありません。

 

腎臓が回復する見込みがある急性腎障害や、中毒のように原因物質を抜けば体が立て直せる病態では、

 

透析は非常に強力な治療になりますが、全身状態がすでに不可逆的に崩れている場合や、

 

複数の臓器不全が進行している場合には、透析を入れても予後を大きく変えられないことがあります。

 

エビデンス上も、重度の循環不全、制御不能な出血傾向、極端な低体温、深い意識障害を伴う症例では、

 

透析による救命率は低く、合併症のリスクが上回るとされています。

 

特に猫では、透析自体が循環に与える負荷が相対的に大きいため、

 

「透析するかどうか」と「する意味があるかどうか」を分けて考える必要があります。

 

透析が技術的に可能であっても、その子が透析という侵襲に耐えられるのか、

 

そして透析後に回復期へ移行できるだけの余力が残っているのかを冷静に見極めることが重要です。

 

慢性腎臓病の末期で、長期間にわたって食欲不振、体重減少、重度の貧血、低アルブミン血症が進行している場合、

 

透析によって一時的に数値が改善しても、その後の生活の質が大きく改善しないことも少なくありません。

 

このようなケースでは、透析をしないという選択が「何もしない」ことではなく、苦痛を最小限にし、

 

その子らしい時間を守るための積極的な医療判断になることもあります。

 

透析を行うかどうかの判断は、数値だけでは決まりません。

 

飼い主さんが何を大切にしているのか、その子にとっての「回復」とは何を意味するのか、

 

どこまでの侵襲を許容できるのか、こうした価値観の部分が必ず関わってきます。

 

医学は選択肢を提示することはできますが、正解を一つに決めることはできません。

 

透析は「できるからやる治療」ではなく、「やることで何が得られ、何を失うのか」を共有した上で選ばれるべき治療です。

 

だからこそ、透析を提案する側の獣医師には、期待できる効果だけでなく、

 

限界やリスクも正直に伝える責任がありますし、透析をしないという決断を尊重する姿勢も同じくらい重要です。

 

透析という治療は、小動物医療においてまだ特別な印象を持たれがちですが、

 

本質的には「壊れた機能を一時的に補うだけの時間稼ぎの医療」です。

 

その時間をどう使うか、回復に向かう時間にするのか、穏やかに過ごす時間にするのか、

 

それを決めるのは医学だけではありません。

 

この4回のシリーズを通して伝えたかったのは、透析は希望でもあり、同時に限界を持つ医療であり、

 

そのどちらも正しく理解した上で初めて選択肢になるということです。

 

透析をするかしないか、その判断に正解はありませんが、

 

「考え抜いた選択」であれば、それは間違いではないと、僕は思っています。

 

では。

 

 

 

みなさまこぞって参加しましょう。

 

 

透析についてですが、僕は犬はいけるけど猫は無理じゃね?と思ってました。

 

これはちゃんとした理由があります。

 

まず一番大きな違いは体のサイズです。

 

猫は体重が3〜5kg程度で、循環血液量はおおよそ体重1kgあたり60mL前後、つまり全血液量は200〜300mL程度しかありません。

 

この中から透析のために血液を体外に出すわけなんで、

 

回路やダイアライザの中に入る血液量(プライミングボリューム)が少し多いだけで、

 

相対的に大量出血してるのと同じ状態になります。

 

人医療用や大型犬向けの透析回路をそのまま使うと、

 

開始直後に低血圧、徐脈、意識低下を起こすのはこのためです。

 

つまり猫の透析では、「どの機械を使うか」以上に、「どのダイアライザと回路を使うか」が成否の大部分を決めます。

 

次に循環動態の違いがあります。

 

猫は犬に比べて交感神経優位で、ストレスに対する反応が強く、血圧や心拍数が急激に変動しやすい動物です。

 

透析という非日常的な刺激は、それ自体が強いストレスとなり、わずかな鎮静の違い、

 

体温低下、電解質変動で一気に循環が不安定になります。

 

ほら、透析やると気怠いっておっさんとかいいますもんね。

 

犬では耐えられる血流量や除水速度が、猫では一瞬で破綻につながることも珍しくありません。

 

さらに、猫は電解質異常に非常に弱いという特徴があります。

 

特に低カルシウム、低マグネシウム、高カリウムは、透析中の不整脈リスクを大きく左右します。

 

人用の透析液をそのまま使うと、猫では低Mgや低Caを起こしやすく、

 

透析自体はうまく回っているのに、途中で不整脈や循環不全を起こすというケースが起こります。

 

つまり猫の透析では、「毒素を抜く」ことと同時に、「抜きすぎない」「崩さない」というバランス感覚が極端に重要になります。

 

血管アクセスの問題も大きく、猫では十分な血流量を確保できる血管が限られており、

 

頸静脈にダブルルーメンカテーテルを正確に留置し、先端を右房手前に置けていないと、

 

脱血不良やアラームが頻発し、透析が成立しません。

 

これは技術の問題というより、シンプルに体がちっちゃいという猫特有の制約です。

 

また、猫の多くの透析適応症例は、AKIや尿管閉塞、中毒といった急性病態であり、

 

もともと全身状態が不安定です。

 

貧血、低体温、脱水、炎症が重なった状態で透析を行うため、

 

開始前からすでに綱渡りのような状況にあることも多く、

 

犬よりも「透析を始める前の準備」が重要になります。

 

具体的には、全血または濃厚赤血球での回路プライミング、

 

電解質の事前補正、過度な鎮静を避けた管理、透析中に張り付いてモニターできる人員体制が不可欠です。

 

逆に言えば、これらの条件を満たせば、猫でも透析は決して不可能な治療ではありません。

 

実際、エビデンス上も猫のAKIや尿路閉塞後の透析で、回復期に乗せられた症例は多数報告されています。

 

ただし犬と同じ感覚で透析を回すと失敗しやすく、「

 

犬の透析の延長線上で考えない」ことが猫の透析では最も重要なポイントです。

 

というか猫は犬の小さいバージョンと考えてる年寄り獣医の大多数だと思うけど。

 

猫の透析が難しいと言われる理由は、機械が悪いわけでも、症例が特別なわけでもなく、

 

体のサイズ、循環、電解質、ストレス耐性といった複数の要因が重なり合っているからであり、

 

その構造を理解した上で設計し、準備し、回すことができれば、透析は猫にとっても現実的な選択肢になります。

 

次回は最終回として、透析の限界、やってはいけないケース、そして「透析をしない」という判断も含めて、

 

どこまでが医学で、どこからが価値観の問題なのかを書いてみようと思います。

 

 

 

↑ 無料のセミナーなので、どうぞチキンでも食べながらご参加くださいませ。

 

 


Macを病院に忘れて携帯で書いてる。

いつもとフォントが違うのが妙にうざい。

第二回透析についてです。


「点滴を続けているのに良くならない」

「数値がどんどん悪くなる」

「これ以上入れたら肺水腫になる」という状況が重なってきたタイミングかな?

透析できたらなあと思ったり。


ここで一番大事なのは、透析を考える基準は一概に決まってるのではなく、あくまでも状況判断だということです。


エビデンス上も、犬猫の透析適応は共通して

「保存療法に反応しない生命危機的な異常が出ているかどうか」で判断されており、

IRISやACVIMのガイドラインでも、透析を考慮すべき代表的な状態として

①高カリウム血症による不整脈リスク、

②体液過剰による肺水腫や呼吸不全、

③重度の尿毒症症状(食欲廃絶、嘔吐、神経症状、出血傾向)、

④重度の代謝性アシドーシス、

⑤保存的治療に反応しない乏尿・無尿、が挙げられています。


ここで重要なのは「数値が高いから」ではなく、あくまでもその子の状態を見極めることです。


例えば急性腎障害(AKI)の場合、

原因が中毒、虚血、感染、薬剤性などであれば、

腎臓自体は回復するポテンシャルを持っていますが、

その回復を待つあいだに死んだら意味がありません。


実際、AKIにおける透析の最大の価値は腎臓が回復するまでの時間を稼ぐことにあり、

透析を入れることで尿毒症や高K血症を一時的にリセットし、腎組織が再生に向かう余地を作る、

要は時間稼ぎっす。


一方で中毒症例、

特にエチレングリコールや一部NSAIDs、重金属などでは、腎臓が壊れる前に毒素そのものを体外に出すという意味で透析の意義が非常に大きく、

「腎不全になる前に透析を入れる」という、ある意味いちばん綺麗な適応になります。


ここでは時間との勝負で、早期に透析を導入できるかどうかが予後を決定づけるとされています。


尿路閉塞の場合も考え方は少し違って、閉塞解除が第一ですが、解除後に急激な尿毒症や高K、体液過剰が表面化することがあり、このとき透析は「閉塞解除後の体内環境を整えるための安全弁」として使われます。


特に猫の両側尿管閉塞では、解除と同時に透析を併用することで、循環の破綻を防ぎながら回復期に乗せられる可能性が高まるという報告もあります。


では慢性腎臓病(CKD)ではどうかというと、

ここが一番判断が難しいところで、

CKDは基本的に不可逆であるため、透析は治療ではなく支持療法になります。


ただし、末期CKDであっても、尿毒症による強い苦痛や意識障害、高Kによる突然死リスクがある場合に、

短期間の透析で症状を緩和し、食事や内服が再開できる状態に戻す、

あるいは飼い主さんと今後の選択を話し合う時間を作る、という意味で使われることがあります。


つまり、AKIでは「回復を待つため」、

中毒では「原因物質を抜くため」、

尿路閉塞では「解除後の安全管理のため」、

CKDでは「生活の質と選択肢を確保するため」と、

透析の目的は病態ごとにまったく違います。


透析を最終手段と捉えると判断が遅れがちになりますが、エビデンスが示しているのは、

むしろ「遅すぎる透析は効果が薄い」という事実で、

体が完全に破綻してから回しても救命率は上がらないという点です。


だからこそ透析を考えるタイミングは、

「まだ少し余力があるうち」であり、

点滴で無理やり粘り続けるか、

透析で一度流れを立て直すか、その分岐点を見極めるのが臨床医なわけです。


次回は、じゃあ実際に犬と猫で透析の考え方はどこが違うのか、なぜ猫の透析は難しいと言われるのか、その理由をお話ししまうま。


https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScl9slMRY_dxKvbuKq0lqW1dM9Lha2aVyb7c8NCkAR7gJUENQ/viewform


↑ タダだから、みんな見て。