(前回記事)
心の履歴(192)
講演は最初の数行・数分勝負
2023-05-15
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12802495798.html
(今回記事)
2009/10/14 著
1983年10月夜7時10分。
場所はアイスクリーム業界最大手藤三商会本社大講堂。
私は壇上で絶叫し握りこぶしで机を思い切りドォス~ン!
前段の能書は終り、いよいよ本論に入りました。
いかにライバル顧客の小売店を奪取するかを。
ランチェスター戦略の紹介で、先ずは広島での出来事を話しました。
「私が広島営業所から本社に転勤後の翌年、広島に出張しましたら、営業員3人が顔を腫(は)らしています。
どうしたんだいと聞くと、ピンサロ(ピンクサロン)の呼び込みの男3人にやられたと言うのです。
私の広島時代、この連中とは広島の飲み屋街「流川」に出かけ、居酒屋で一杯飲んでから、ピンサロ荒しをするのです。無論、平日の客が少ない時間帯で。」
「当時、ピンサロ、一人45分1500円の入店料を5人だからと店の呼び込み人と交渉し、一人当たり800円まで値引き。そして、合図者を予め決めておき、入店後45分合図で全員一斉退店。
ここを出たら、別の通りのピンサロの呼び込み人とまたまた交渉。一番安い時は450円でした。
私が広島を去ってからも、連中は依然とピンサロ荒しをしていたのです。
或る日の事、社員連中4人が流川でいつも通りピンサロの呼び込み人と交渉しようとしたとき、別々の店の呼び込み人3人が集まり、連中と対峙したのです。
危険を感じた山田社員は逃げて電柱の陰に隠れます。
残るは3人対3人。
然し、勝負は僅か十秒そこらで決着したというのです。
うちの社員連中3人はあっという間にノックダウン。
反して、呼び込み連中3人は無傷。
その結果が社員連中の赤く腫れた顔。
私は大笑いしました。
『ランチェスター戦略にやられたな!』
広島のピンサロの呼び込み連中は、戦略を知らずも喧嘩で無意識の内に戦略を使っていたのです。」
私は演台を隅に移動し、黒板を前面に。
そして黒板に大きくOで囲んだABCの三個と、同様に下にイロハの三個を描き、矢印数本を書きました。
この話で聴衆から発せられる熱波がぐっと強くなりました。
「呼び込み連中は三人対三人の喧嘩を 一人対三人の三回の喧嘩に細分化したのです。
この場合の兵力数比は、1対3だから負けたと単純に思いがちですが、そうではないんです。
この場合の攻撃量比は、1対3ではないのです。
お分かりですか?
1対9なのです。
再度言います。
攻撃量比は、1対3ではなく、1対9です。
恐らく皆さんが想像していない差なのです。
解説します。
各自相手一人を一発殴るのに1秒かかるとしたら、Aはイロハの3名を一発づつ殴るのに3秒かかりますね。
反して、イロハの各人は、それぞれ、この3秒間でAを3発も殴ることが出来る。つまりイロハの三人で、僅か3秒間に各自3発ずつの合計9発もAを殴ることになるのです。
これをランチェスター戦略の『第2法則』と言います。
私は分かり易く『二乗法則』と呼んでいます。
皆が同じ腕力で誰も武器を持っていない場合、
『攻撃量=兵士数の2乗』なのです
兵士数1の2乗は1。
兵士数3の2乗は9.
Aは一瞬でノックアウトされたのは当然ですね。
次にイロハの3名は即座にBに襲いかかり、同様に第2法則でBを瞬時に倒し、そして次にCをも一瞬で倒したのです。
結果、ABCの三人全員は10秒そこらでノックアウトされ、他方、イロハの三人は無傷のまま。これがランチェスター戦略の一つなのです。戦略とはこういうものなのです。」
これで聴衆の皆さんの眼は益々輝く。
「では、その小売店を奪取する戦略とは。
皆さんの各支所では、事務所の壁にエリアのマップを貼っていますね。そのマップは小さくて古いものが多く、何かを記入されていたとしても、せいぜい自社顧客の店の地点に赤い点を打っているのみですね。
これでは戦略的思考が出来ません。
住宅地図をコピーし、それを貼り合わせて事務所の会議室の壁一面に貼りなさい。
そのマップの上に全ての自社顧客を赤い名札に書いて松葉針で刺しなさい。
次に、全ての他社問屋の顧客も色分けした名札に書いて、松葉針でマップに刺します。
これであなたの市場は一目瞭然。
これが、ランチェスター戦略での基本の一つ、『ローラー調査』です。」
そのマップを基に、市場をどう攻略するか、実例を交えながら説明していったのです。
黒板に地図を描きながら。
「市場Dを攻略したいなら、Dを囲むABCの三点を攻め、次にABCを結ぶ線上のエリアを攻撃する。点から線へです。それが出来て初めて目的とする市場Dを攻撃するのです。つまり線から面へ。囲い込み戦略。これが『三点攻略法』です。」
当然、私の持ち時間の二十分はとうに過ぎています。
ど真ん中の席の聴衆から手が上りました。
ビクッ! 時間オーバーを指摘される!
これで私の講演も終わりか!と思いました。
「そこの挙手をしている方。はい、どうぞ仰って下さい」
「黒板の字が小さくて読めなく書き写せません。もっと大きな字で書いていただけないでしょうか」
「分かりました。大きな字で、楷書で書きます」
後方の人からも挙手。
「はい、どうぞ」
「赤の字は、後ろの席からは見えません。全部白のチョークで書いてくれませんか」
「分かりました。赤チョークは使いません。全部白チョークで書きます」
嬉しかったです。
しっかりと聴いているのです。
神様に見えました。
更に気がついたのは、ほぼ全員がカバンに一旦しまったノートを広げてペンを右手に持っている。
こうなったら、行ける所まで行け!
私はマイク片手に演壇の前ぎりぎりの位置に立つ。
この頃、田岡信夫氏のランチェスター戦略に関する著書は十数冊。無論、これは全て読破していましたし、東京時代、八重洲ブックに度々行き、戦略と名がついた本は全て購入し読んでいました。
ですから、自分の日頃の活動は戦略的かどうか、他社の動きを見てはどのような戦略かを常に念頭に置いて動いていましたから、演壇での理論と実践例に困ることはありませんでした。
午後八時過ぎ、最後尾の席で挙手があり、何か言っています。聞こえません。急遽、部下の今中君が聞き取りに最後尾まで走りました。
内容は「急遽、広島の有力な顧客が亡くなった。この講習のこれからの内容は、後日、岡山の所長からしっかりと聞いておくから今夜中に広島に帰って線香をあげさせて欲しい。今から京都駅に向かってギリギリ」というものでした。
会議を取り仕切る取締役営業佐藤本部長にお伺いを立てずに、私に聞いてきたのです。
「当然です。何はともあれ、お客さまが先ずありきです。京都駅に急ぎなさい!」
講演を続けました。
戦略を駆使した私の三多摩地区での実践例も話しました。
「東京支店時代、タバコ自販機の販売で三多摩地区を手伝って欲しいとの森広支店長の要請で、小金井市と国立市を担当しました。
小金井市の我が社のシェアは僅か数%。寡占しているのはナショナル。その担当者も小金井タバコ組合の会長の酒販店の真向いのマンションに住んでいます。
ここでは、弱者戦略です。
私は構わず会長と交渉しました。
会長とは単なる名誉職ではない。
タバコ小売店の繁栄のためにあらねばならぬと力説。
会長を、見本機としてたばこ自販機5台を積んだトラックの助手席に座らせ、各タバコ小売店を訪問したのです。結果、この年のナショナルの販売台数は27台。私の販売台数が40台。我が社がシェアNo.1に。
国立市でも我社の顧客は国道筋に僅か2~3軒のみです。
過半数はG(グローリー)社。
次のメーカーが、国立の組合会長の進めるクボタです。
JR国立駅から南東に伸びる旭通りには、確かタバコ小売店が5店あり、その全てがG社でした。
私はこの通りに狙いをつけ、先ずは二点攻略として両端のタバコ屋を落としてから、オセロゲームの如く、次々と全ての店を我が社の自販機にしました。こうなると国立市全体に雪崩現象が起き、紹介、紹介の連続で我社製品が国立市の店頭に納入されていったのです。
驚いたのはとことんやられたライバルG社課長でした。
不思議なことが起きました。
国道を走っている私の車を停め、彼がどうしても落とせなかった顧客の所在地を頼みもしないのに教えてくれるのです。それも3度も。
私のG社課長の紹介のお店への訪問の言葉は、
『ライバルG社課長が、あなたをどうしても落とせないから、私に落としてくれと頼まれましたので訪問しました』。これで店主と奥さん共々、大笑いしました。無論、その初回訪問で即受注です。」
更に外国企業の北守(ほくしゅ)南進論などを説明しました。
「先ずは一旦北である札幌を攻めます。故にファッションは、銀座と札幌は同時期か銀座よりも札幌が早いのです。
次に、鹿児島、又は沖縄から北上します。本州に入ったら日本海側を北上。秋田で本州を横断し岩手へ。岩手から青森、そして北海道へとなります。
これが日本全国制覇のシナリオなんです。外国企業は、忠実にこの戦略に基づいて攻めているんです。」
この時に話した一つに、コカコーラー社の世界&日本戦略です。それと外国のタバコメーカーです。だから外国タバコのシュアーは北海道が一番高いのです。
その他、世界的企業の戦略も話しました。
この頃になりますと、国内でもランチェスター戦略導入による成功事例を発表する企業が増えていました。
無論、国内企業の販売戦略も実例の黒板図解付きで話しました。記憶にあるのが、花王石鹸・イトーヨーカ堂です。
いつの間にか会場の柱時計は8時44分。
つまり、1時間34分経過。
短縮された20分間ではなく、ずうずうしく、当初の1時間40分まで残るは6分。
「改めて申しあげます。
あの街角の駄菓子屋のお爺さんお婆さんの小店が、あなたの会社とあなたの可愛いお子さんを守る最後の砦であることはご理解出来ましたね。
この小店開発は、部下に任せるのではなく、あなた自身が、あなたの足で小店を訪問するのです。
あなたが、あなたのマップで考えた戦略に基づいてです。
そして、或る日突然、道は開かれます。
それは、あなたが顧客を獲得した時です。
換言すれば、あなたが自ら考えた戦略を自ら実践し、あなた自身で結果を出した瞬間です。
この時から、あなたに戦略的思考が定着するのです。
神は、あなたがこの道を歩んでくることを待っているのです!」
「どうやら、私の持ち時間1時間40分に残るは30秒。
皆様のこれからの戦略的奮闘を期待して終わりと致します」
☆
そう言って私は壇上で深々とおじぎをしました。
会場は、しぃ~~んと静まり返っています。
壇上から降りて、再度全体を見渡して軽く会釈しました。
その時、最前列の支店長クラス5名とその後ろの席の2名が立ち上がり深々と私に向かっておじぎをしたのです。
傍に寄ってきた部下の今中君の顔は興奮で紅潮していました。
私は側面でずらりと座っている取締役席の最前の佐藤営業本部長の元に行き、無言でおじぎをしました。
「いや~、よく勉強してますね」とは彼の一言。
私はニコリと笑って、ゆっくりと15歩ほど先の会場出口の扉に向かいました。
背後で何か音がする。
扉のノブに手をかけようとした時、背後で激しい拍手。
その時、何が起きたのか分かりませんでした。
佐藤本部長が何か新しい事を始めたのかと思いました。
ノブに手を掛けた時、何気なく後ろを振り返りました。
何と全員総立ち。
全員こちらを見ている。
拍手しながら。
何が起きているのか私には未だ分からない。
拍手は一段と高くなりました。
ひょっとして?
そうか、私に対してか。
私は嵐のようなスタンディングオベーションに向かい、再度深々とおじぎをし、それからゆっくりと扉を開けて会場を去りました。
「水無瀬係長! やりましたねぇ~~!」
「おォ~! 今中君! 喋りすぎた! 直ぐ生ビールを飲みに行こう!」
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心の履歴(194)
時間の大切さを如何に教えるか
2023-05-18
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12803436995.html
心の履歴30代②主任編:目次
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12751545910.html
(壇上画像)
https://www.cinemacafe.net/article/2015/02/24/29618.html
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