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ピーター・ドラッカー(6)ギムナジウム(中高時代)
2021-06-12 
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12678746643.html

 

 

今回記事

ピーター・ドラッカー(7)独ハンブルクに
退屈なウィーン脱出 本物の「大学教育」図書館で

クレアモンド大学で講義する筆者

 

ウィーンのギムナジウムでは退屈な授業に心底うんざりしていた。そんな状況から抜け出す手っ取り早い方法は、ドイツか英国で見習いの仕事を始めることだ。

教師たちとも、私がもう十分に学校のイスに座ったという点で意見が一致していた。しかも、弟が医学の道に進むことを決め、当分は父に扶養してもらわなければならないこともわかっていた。父の負担を軽減するためにも経済的に自立したいと思った。

けれども父は大学への進学を強く望んでいた。親族や知人には大学教授が大勢いたし、ウィーンでは教授の社会的地位は非常に高かった。父には「おまえには商人の才覚が欠けている」と指摘されたが、それももっともだった。

だが、大学教授の道を歩むとなると、ウィーン大学という由緒ある大学がある以上、ウィーンを脱出する理由がなくなってしまう。結局、父の期待を裏切って、1927年にドイツへ移住し、ハンブルクの貿易会社で見習いになる。17歳だった。

ハンブルクでは、父に喜んでもらえると思い、ハンブルク大学法学部にも入学。夜間部に通えばいいと思った。ところが、同大学に夜間部がないことが判明し、1年余りのハンブルク滞在中に一度も講義に出なかった。幸い、当時はおおらかなもので出欠のチェックはなく、卒業試験さえ受ければ学位はもらえた。

 

見習い仕事はつまらなかったが、ハンブルク時代は意外と充実したものになった。学生だから映画館の無料入場券をもらえ、週に3回は無声映画を楽しめた。

 

それに加え、便利なことに通りをはさんで仕事場の向かいに素晴らしい公立図書館があった。

図書館ではドイツ語や英語、フランス語、スペイン語の本を手当たり次第に読んだ。英語が一番多かっただろうか。

 

ここで本物の「大学教育」を受けたと思う。一番影響を受けたのは、当時は母国デンマーク以外では無名だった19世紀の思想家、セーレン・キルケゴールだ。(註)

 

(註)実存主義キルケゴール

『死に至る病』 (岩波文庫)  – 1957/1/1 

「人間とは精神である。

 精神とは何であるか?

 精神とは自己である。」


「自己とは何であるか? 

自己とは自己自身に関係するところの関係である。」

「本当の絶望とは、死ぬに死ねない状況なのだ!」
「絶望して自殺をした場合は、未だ本当に絶望していないから死を選択することが出来た!」

「究極の意味において絶望は死に至る病である。」
「我々は死ぬべきして然も死ぬことが出来ない。」
「否、我々は死を死ななければならないのである。」

「絶望者による死はいつも自己を生の中に置き換えるのである。絶望者は死ぬことが出来ない」

「彼が何かについて絶望しているのは本当は自己自身について絶望しているのであり、そこで自己自身から脱け出ようと欲するのである」

「 (帝王になれなかった男の絶望の場合) 彼は本当は自己が帝王にならなかったことに絶望しているのではなく、帝王にならなかった自己自身に絶望しているのである」

「もっと正確に言えば、自己自身から脱け出すことが出来ないと言うことが彼には耐えられないのである」

我々は、誤謬(ごびゅう、間違い)の中に生きている

 

   ☆


ハンブルク滞在中には文筆家として記念すべきことが一つあった。大学入試のために書いた論文「パナマ運河の世界貿易における役割」がドイツの経済季刊誌に掲載されたのだ。私が書いたものが活字になったのはこれが最初だ。

それをきっかけに、見習いの仕事を始めたその年のクリスマス休暇は生涯忘れられないものになった。

 

ウィーンに帰ると、愛読していた経済週刊誌オーストリア・エコノミストから、新年特集号の編集会議への招待状が届いていたのだ。末尾に「あなたの論文は非常に優れていると思う」と手書きで記され、編集長のサインがあった。

英国の有力誌ロンドン・エコノミストをモデルにした同誌は、1930年代にナチスドイツの弾圧に遭うまで欧州有数の雑誌だった。父は創刊時からの支援者で、同誌は父を喜ばせるために私に招待状を送ったのだと思う。

編集会議には副編集長として、後に大著『大転換』を発表したハンガリー系経済人類学者カール・ポラニーがいた。

 

たちまちポラニーに魅せられた私は、会議後に「もっと話を聞きたい」と申し出ると、彼は即座に了承してクリスマスディナーに誘ってくれた。以来、1937年の米国移住後も含め、彼とは家族ぐるみの付き合いを続けることになった。

https://www.nikkei.com/article/DGXZZO49034760X20C19A8000000/?unlock=1


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ピーター・ドラッカー(5)最高の教師
2021-06-04
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ピーター・ドラッカー記事一覧(書庫)
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(画像)ユーチューブ
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