それは、劇的な別れの会でした。
☆ ☆ ☆
〈突然の別れ〉
小学六年生の三学期が終わった昭和33年(1958)弥生三月末の春休み、本荘に転校する事になった。
突然の事である。
二日後にいよいよ下川大内村(現、由利本荘市)と離れる日に、友達の健(ケン)君が「送別会をやるから来て」と言う。
暗くなってから、定刻前に彼の家の二階に上がった。
間も無く、同級生が二人、入って来た。
英子さんとその友達の和子さんである。
私は、英子さんに好意を寄せていたので、健君が気を利かして呼んだのだ。
健君の母親が二階に上がって来た。
持って来たものは一升瓶二本。
それから、男は健君と私、女子は英子さんと和子さんの計四人で送別会が始まった。
英子さんは結構酒が強い。
「飲め!飲め!明日から会えないぞ!」と言って、英子さんに健君は、さかんに日本酒を注ぐ。
無論、冷のコップ酒である。
※当時の村社会では、お祭りの時などに子供達にもお酒を振る舞われたものです。ですから、躊躇なくお酒を飲むのです。
英子さんの頬はやがて赤くなり、ますます可愛い。
身のこなしがどんどん柔らかくなる。
私も、ぐいぐい飲む。
英子さんにより密着したいし、恥ずかしやらで。
この時、矛盾という言葉を、知らなかった。
もじもじ、そわそわ。
酔ってしまったのか、其れとも赤く色付いた英子さんに見とれてか、この時、何の話をしたのか全く記憶がない。
唯、英子さんの目に、涙が浮かんでいた事は覚えている。
夜もふけて、「このままの帰宅では、顔が赤いから拙い。酒を醒まそう」という事となり、帰り支度をし、四人でガラガラと戸を開けて外に出た。
田舎の事、街灯は無い。
四人で真っ暗な砂利道の国道の真ん中を並んで歩く。
ふと見上げると、星の輝き。
皆、立ち止まり、空を見上げた。
☆☆☆☆☆☆!!!
「あ~、あの星座は!」と誰かが。
「この星座は!」とまた誰かが指差す。
「あっ!流れ星!」
「どこどこ?」
そして、暫く無言。
仰ぎ見る満天の星の数々。
静かに無言の時が流れた。
誰かが、そっと歌い出した。
連れて、皆、一緒に歌い出した。
星空に向かって。
小学校で習った、かの歌が終わったらこの歌も。
そして次にはその歌も。
あの歌も。
(ふるさと)https://www.youtube.com/watch?v=_C_WIGih-V8
(冬の星座)https://www.youtube.com/watch?v=5R28KlYNwcI
(里の秋)https://www.youtube.com/watch?v=e2vkuDPLqYo
(かあさんのうた)https://www.youtube.com/watch?v=mUFcgZdNLU8
(おぼろ月夜)https://www.youtube.com/watch?v=djNC73V-X0c
(もみじ)https://www.youtube.com/watch?v=QPQYWyKm-uI
(われは海の子) https://www.youtube.com/watch?v=ewl9H_EqgFU
やがて、歌は自然とか細くなり、そして暗闇に消え入った。
誰かが何かを言わなければならない事は、皆、分かっていた。
どの位の沈黙が経ってからだろうか。
健が言った。
「手をつなごう」
手をつなぎあい、輪になった。
手探りで。
暗闇の中、お互いがお互いに影。
「さよなら」
「身体を大切に」
「忘れないで」
皆、声を押し殺して泣いた。
いつかは、離さなければならない手。
涙しながら、手を離し、おもむろに、身を引いた。
それから、後ずさり、後ずさりし、
そして、前を向き進み、
振り返り、振り返りながら。
やがて
遠くになる彼らに向かって私は叫んだ。
「さよ~なら~ァ~、ケェ~~ン!!」
「さよ~なら~ァ~、英子サァ~~ン!!」
「さよ~なら~ァ~、和子サァ~~ン!!」
私は、振り返り、振り返り、暗闇の中、星明かりで見えるだろう皆の影の方向に手を振った。
涙で、見えないながらも。
彼方の暗闇からの応答が、だんだん小さくなっていく。
そして、やがて、消えた。
「さよなら、下川の山と川!」
「さよなら、小学校時代!」
「みんな、みんな、さようなら!」
私の村社会での幼・少時代の幕は、こうして閉じました。
幼・少時代・完
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(拙稿元文)
英子さんとはこうした別れでした
2007/11/05
私の履歴書・27
※小学6年間の通信簿裏面
(画像)
星空
https://pixabay.com/ja/photos/%E9%8A%80%E6%B2%B3-%E6%BA%80%E
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