加齢なる一族、團菊祭五月大歌舞伎夜の部を観に行きました。
5月は、忙しくて、取ったチケットを手放したのですが、予定がなくなり、当日取ったチケットで観ることが出来ました。
夜の部の演目が大好きな「伽羅先代萩」なんですもの!
一、伽羅先代萩
乳人の政岡(尾上菊之助)は、御家横領を企む執権の仁木弾正の一味から幼い鶴千代(中村種太郎)を守るため、御殿の奥で若君のための食事を用意しています。
そこへ見舞いと称してやって来た栄御前(中村雀右衛門)が、持参した菓子を鶴千代に勧めるので、毒入りではないかと政岡は警戒。
すると、政岡の息子千松(尾上丑之助)はそれを察して飛び出すと菓子を口にします。
俄かに苦しみ出した千松を、弾正の妹八汐は懐刀でなぶり殺しますが、我が子の無残な姿を前にしても動じない様子を見て、栄御前はすっかり気を許すと、政岡に御家横領の証拠となる連判状を渡します・・・。
さてさて、菊之助さんの政岡は以前観たし、きっと堂々とした政岡だろうと思ってました。
政岡を演じる菊之助さんと、政岡の息子千松を演じるのが、菊之助さんの息子の丑之助くんです。
私は、この本物の親子が、演じる政岡と千松を観たかったのです。
場面は、飯炊きから。
毒殺されることを憂いた政岡が、茶道の作法でご飯を炊きます。
この場面を大切にされている玉三郎さんは、この飯炊きの場面を必ず演じると聞いています。
この二人は、実際に親子だからと私が思うからなのか?
政岡と千松の二人に流れるお互いを思う雰囲気が、胸を打つのです。
何だか、最初から涙ぐむのも恥ずかしいのですけど…。
鶴千代君に忠義を尽くすのだと母に教えられ、一生懸命その使命を果たそうと頑張る、幼い息子が、切なく、哀れです。
また、それを強いる母も悲しい。
歌舞伎の子役は、独特の台詞回し、高い声で単調に台詞を言うのです。
丑之助くんは、歌舞伎独特の台詞の言い方でありながら、単調な音階に、抑揚を付けて、巧みに感情を入れます。だからより心に響きます。お腹空いて声に、元気がないのも、とても哀れで良かったです。
これは菊之助さんの指導なのでしょう。
そして、所作が丁寧で綺麗です。
これも指導なんでしょうけど、それをきちんと体現するのが素晴らしい。
そして、いよいよ、栄御前の登場。
雀右衛門さんも、悪役らしく演じるのですけど、普段のおっとりした優しさがちらちらと見えるのは、私は嫌ではありません。
雀右衛門さんの魅力は、この優しさだもの。
あー、秀太郎さんの嫌な感じの栄御前が懐かしい…。
八汐は、何と歌六さんの代役の芝のぶさん。
この大抜擢は、やはり菊之助さんですよね!
元々の配役の松島も、良い役でしたね。
歌六さんの体調が心配ですけど、芝のぶさんも楽しみでした。
太く低い声、憎らしい態度、ギリギリと刺し殺す恐ろしい顔、去って行く時の嫌味な顔、とにかくやれるだけの事、全てやった感じ。
足りないとしたら、私を見よ!という自信満々な気持ち。
代役ですもの、そこはね…。
でも、急な代役をよく演じたと感心しました。
悪役の色気は、十分あったと思います。
そして、八汐に刺されて、悲鳴をあげる千松。
この時の「あー」が大事。
切なく、時に弱く、痛そうに。
丑之助くんの悲鳴、良かったですよ。
泣かされました。゚(゚´Д`゚)゚。
政岡は、息子千松を助けることなく、鶴千代君を横抱きにして、しっかりと守り抜きます。
どんなに息子に駆け寄りたかったか!そう思うと、
切なくて…。
そして、誰もいなくなってからの政岡の「でかしゃった、でかしゃった」。君主の為に命を落とすことが、忠義なら、千松は、母の教えの通りの忠義者です。
息子の千松を抱きながら、立派だったと泣きます。
忠義者だと褒めながら、息子にそう教えなければならない親の悲しみ、大切な息子を失った絶望、本音と建前の場面です。
床下の場面で、仁木弾正の團十郎さん登場。
團菊祭ですものね。
色気と凄み、團十郎さんのビジュアルの良さは、誰にも負けない個性です。
さすが團十郎と思いました。
長々と書きつらねてしまいました。続きは、また別日で書きますね。
先代萩が好きなので、新しい歌舞伎座になる時の演目アンケートに先代萩を希望と書いたぐらいなんです。
ちなみに歌舞伎座新開場の時、先代萩は、上演されました。